牛田享宏 運動器における痛みとしびれの診療:集学的治療の必要性 日整会誌 2013;87:1151-1156

  • 現在行われている整形外科の治療体系は理学所見や画像所見に基づいて診療することが基本であるが、慢性的に痛みが続いている患者では、このような従来の生物医学的考え方だけでは症状の緩和につながらないことも多い
  • 慢性痛は器質的な面からだけ見てもさまざまな要因が合わさった状態であり、基本的には急性痛と全く異なる病態という捉え方で進める必要がある
  • 運動器の痛みには器質的な要因と心理社会的な要因が混在していることも多く、心理的な要因が改善すると、それまで有効でなかった薬物療法が奏効し始めるといったことも知られている
  • 心理的なもの=存在しないもの」というような医療者の不理解に伴う説明などはしばしば患者の医療への怨みや医原性の痛みなどへの進展につながるため、留意が必要な部分でもある
  • 痛みを有する患者の診察にあたっては、診察室の中での患者の姿がすべてではないことを念頭に置き、家族背景や病気の経過、画像診断と神経学的な評価に矛盾がないかなどに注意すると同時に、診察室の外での患者の様子など看護師、理学療法士、受付係などの観察した事象についても傾聴していく必要がある
  • 慢性痛治療のゴールの設定にあたっては、単に痛みを取り除くという観点にこだわらず、社会の中で居場所を作ることを主眼に進める必要がある
  • 器質的な面あるいは精神心理的な面から痛みを分析し、ターゲットとして治療していくことは大切なことであるが、多くの慢性痛では完全に痛みを消失させられないことが多く、むしろ痛みがあってもそこにこだわらず、生き甲斐のある生活を送っていけることが最も重要な目標の一つと考えられる
  • 痛みのことで頭がいっぱいになっているような、「慢性痛に囚われている患者」には、治療の目的を「痛みを取り除く」ことに執着するのではなく、心理面や社会面へも働きかけて、「患者のADLを改善し、QOLを高める」ことへ意識を向ける必要がある