心因性疼痛の診断と治療

久保千春 心因性疼痛の診断と治療 麻酔科学レクチャー 2010;2(4):606-612

  • 国際的に最も重要な慢性疼痛の治療法となっているのが、認知行動療法です。これは、痛みが単に潜在する組織病変のみでなく、認知、感情、行動といったものによって影響を受ける複合した多次元の経験だとする考え方を基礎としています。認知の因子については以下の4つの観点で分析することが重要です
    • 1 疼痛制御(pain control belief:痛みの性状とそのコントロールの可能性についての感じ方)
    • 2 自己効力感(self-efficacy belief:患者が痛みに対処できるという自信)
    • 3 恐怖回避感(fear-avoidance belief: 痛みに関する恐怖と回避傾向についての感じ方)
    • 4 コーピングの形式と戦略(coping styles and strategies:痛み体験との付き合い方)
  • 各症例でこれらの認知の方式について検討し、痛みの否定的な見た方に焦点を合わせた破滅的な(catastrophizing)感じ方を積極的な痛みとの付き合い方(active coping)に置き換えていくことが、認知行動療法の原則です。
  • 心身医学的治療の考え方としては、痛みという患者の訴えより、痛みに伴う態度・行動(疼痛行動)を治療の対象と考える行動論的立場をとるものが多いです。
  • したがって、治療目標は、痛みを受容しその自己コントロール感を獲得し、日常生活の行動範囲を広げ、社会生活の適応障害を回復していくことです。また、基本的な治療姿勢は、患者の訴えを受容的・共感的態度で接すると同時に、身体的治療を行いながら良好な患者・医師関係を形成することです。