強迫傾向のある慢性疼痛患者に対する治療戦略の検討

永岡三穂、村上典子、福永幹彦 強迫傾向のある慢性疼痛患者に対する治療戦略の検討 心身医 2010;50:155-158

  • 慢性疼痛と関連が深いとされる痛みの認知様式として、catastrophizing,破局的思考が挙げられるが、強迫神経症の認知様式も同様に脅威の過大評価、一種の強迫行為として特定の話題やテーマについて収穫のない思考を続けるという反芻があるなど、破局的思考に至る要素は十分に備えている
  • 症例1
    • 痛み認知 なくなっていないから、よくなっていない。いつなくなるのかと考えている。どうしようもない痛み 痛み行動 外出抑制 痛くても家事を過剰にする傾向
  • 症例2
    • 痛み認知 また痛くなるのではないか 自分ではどうすることもできない痛み 潔癖症 掃除のやりすぎ
  • 症例3
    • 痛み認知 このまま本当によくなるのか また痛くなるのではないか こんなに痛いなら死んでしまった方がまし 会社事務や家事を完璧にこなす 痛みレべルと関係なく行動
  • 症例4 4,5はMOCI<13(強迫なし)
    • 痛み認知 また痛くなるのではないか どうしたらよくなるのかわからない どうしようもない痛み 痛みでやりたいことができないのは痛みに負けることと考え日常生活を続けていた
  • 症例5
    • 痛み認知 また痛くなるのではないか 痛くて動けない
  • 結果
    • 全例に共通して見られるのは、疼痛の種類が筋肉性ということ、痛みのへの破局的認知がみられること、患肢を引きづるというような疼痛行動がみられること、痛みが再燃、悪化するのではないかという考えから、痛みが増悪すると患者が予想した行動を避けたり、制限することなどの回避行動がみられた
    • 強迫のみられる群では、回避行動をしつつも他者から見て過剰であると判断されるような日常生活での身体的負荷をかけていることが判明した
  • しかし患者自身はその行動が過剰であるとか、不合理であるなどと認識する自我違和感はみられず、自ら過剰な身体負荷をしてしまうなどの情報を治療者に提供することはなかった
  • 考察
    • 急性期の非特異的な筋肉性の疼痛において、破局的思考の強さと動くことへの恐怖感が強いほど疼痛や障害が大きくなるといわれている。
    • 強迫性格を持つ慢性疼痛患者の場合、疼痛維持の悪循環の中に過剰な身体負荷(女性では特に掃除や洗濯など家事のやりすぎ)がないかどうか問診する必要があり、本人だけでなく家族から見た患者の行動への評価や、行動の前後での疼痛の変化などを参考に運動強度が適切であるかを判断すべきと思われる
    • 強迫傾向のある慢性疼痛患者の場合にはそれらに加えて回避行動をやめさせつつ、過剰な身体負荷を制限するような“中庸”を意識したアプローチが必要ではないかと考える。