慢性疼痛治療のポイントと今後の展望 座談会

慢性疼痛治療のポイントと今後の展望 座談会 Bone Joint Nerve 2012;2(2):339-355

  • 牛田 厚生労働省研究班の慢性痛の調査 運動器の慢性疼痛15%、慢性疼痛は高齢者に多いと考えてきたが、今回の調査では若い世代が多くて、労働者でなく、事務職などの専門職に多い。また半分以上も病院に行っていない方がいて、そういった方を慢性疼痛の患者さんという位置づけに持っていくかどうかというのは難しいところだと思います。「慢性疼痛を持った人」というのと、「慢性疼痛の患者さん」というのは難しい線引ですね
  • 中塚 意外と腰痛患者さんの中に神経障害性疼痛を有する方が多いことに整形外科医としても注目しなくてはいけない
  • 牛田 患者さんが全人的によくなるという意味からいうと、痛みそのものがあるということよりは、例えば何かの活動ができるようになるとか、いたみがあっても苦痛ではないということが大事ではないかと思っています。
  • 真下 痛みと心理的・精神的異常は非常に密接に結びついていますが、どちらかが結果でどちらかが原因かを判断することは難しい。HAD尺度などが異常値を示しているからといって、痛みの原因をその人の精神的な問題とか性格の問題とかに簡単に位置づけるとしたら、診断を誤ることがあるし、患者さんにも失礼なことになります。慢性疼痛と心理的な問題は密接に関わっていますので、それをどう解釈していくかということが非常に重要な課題だと思います。
  • 三木 オピオイドというのは器質的に何かある人はとてもよく効いて、あまりなさそうな人には効かないといような印象があります。
  • 真下 オピオイドの効果の違いについては2つの要因が考えられます。一つは疼痛の種類によって効き方がかなり違うこと、もう一つは人のオピオイドの感受性に相違があることです。オピオイドは侵害受容性疼痛が最もよく効きますね
  • 牛田 感受性に大きく影響を与えている因子は心理的問題、あるいは社会的な問題が大きいだろうと思います。
  • 牛田 共依存は慢性疼痛にしばしばみられる大きな問題です
  • 三木 薬物療法は試してみてダメだったらやめましょうでいいですが、手術したら一生面倒を見てあげないといけないと私たちは教わりました。
  • 三木 万が一治らなくても「ごめんなさい」といえるような人でないとメスは持てない感じですね。「それでもいいです」という人ですね。それを恨んでまた別の病院にいくような人には無理かなと思います。
  • 牛田 日本整形外科学会の演題をみていても9割以上は手術の内容ですね。
  • 牛田 私共のグループでおこなった2700人くらいの一般の人での調査ですが、「同じ状況になったらもう一回手術を受けたい」というのは全体像で言うと6−7割と高いのです。ところがここが問題で整形外科の手術で首の手術、腰の手術、膝の手術と3つにわけたら、いずれも「もう同じ手術はしなくない」というわけです。一般の人で癌なども含めて同じ状況になったら、もう一回手術したいという人が多いですが、これが整形外科のみ手術を取り上げてみたら全体像とはずれていたことがわかってきました。
  • 真下 痛みの教育をもっと体系的に行う必要性がありますね
  • 牛田 日本整形外科学会の中で疼痛対策委員会ができた。
  • 真下 日本とドイツとアメリカで整形外科、内科、麻酔科の一般の医師を対象としてコンピュータで抽出し、どういった薬剤を使用しているかアンケートを取った結果、アメリカとドイツはだいたい同じ傾向。日本はバラバラ。NSAIDsが慢性疼痛に第一選択として使われている.世界的に日本が痛みの診療で遅れていることを如実に示している
  • 真下 (慢性疼痛治療において)今後臨床心理士の役割が重要になってくるのではないかと思います。
  • 中塚 若い先生に思うのは、患者さんの苦痛ですね。苦痛に対して真摯な態度で向きあってるかという、まず医療人としての大事な基本的なところをもっていたら、痛みの治療につながってくると思うので、そういった心構えをもってほしい。
  • 三木 痛みの治療といっても、痛みをとるだけが目的ではなくて基本的にはどれくらい生活の質がよくなるか、患者さんが診察室に来ている場面でなく、生活全体をみてそれが向上するようにどれくらいできるか。治療というのはそのひとつでしかないので、手術したらなんでも治るというものでもないですし、患者さんの背景をよくみて治療するのが一番いいのではないかと思います。