- 脊椎には椎間板、神経組織、関節(椎間関節)、種々の靭帯、筋肉等痛みを発しうる組織が数多くあり、これらのどこが原因かは特定できません(非特異的な痛み)。よってレントゲン検査はあまり役に立ちません。しかし、どこが原因であれ、損傷部位の炎症が警戒すれば、痛みは治まります。つまり、腰椎のどこが怪我をしたかどうかは深く追求する必要はほとんどありませんし、心配する必要も全くありません。
- 特に狭義の慢性痛では、前述した、心理・社会的要因の関与が強いとされ、例えば慢性の腰痛患者や線維筋痛症患者ではうつの割合が高く、慢性腰痛の発症や遷延化には、仕事の満足度や年少期における虐待の経験(心的外傷)の関連が強いとする論文があります。
- むち打ち症では被害者意識が強ければ強いほど症状への執着が強く、最初は寝違えよりも軽い痛みだったにもかかわらず何年にもわたり痛みを訴え続けることがあります。
- 原因がはっきりしない痛みがあると言われてもよくわからないし、納得できないと思われた方もいらっしゃるでしょうが、それが現実なのです。
- 痛みで悩んでいる患者さんは、必ず原因が局所に存在し、それは画像所見で捕らえられ、その原因を取り除かねば治らないと考えます。医療技術が発達し続ける現在、原因がわからないなどということは信じがたくなっとくできる説明と治療法がみつかるまで多くの病院を訪ねる人もいます。このような場合の多くは、痛みを治すのは医師であるという医療者への依存傾向が強くなります。しかし、痛みは改善せず、納得できる節もいもなく治療に対して不満と失望を抱くようになると、より一層心は痛みに集中し、親しい人との付き合いや楽しみごとまで行わなくなり、活動性やQOLは低下します。そうなると不満や失望感が強まるだけではなく、うつ傾向も強くなり、さらに痛みが増強するという悪循環を形成します。
- 画像所見は必ず痛みを説明できるのでしょうか?答えはNOです。
- 画像所見でわかる背骨の変形と痛みは関連が強いとは言い切れないのです。すべり症に関しても、すべりの存在や程度と痛みは相関しません。靭帯骨化症の初見も然りです。
- 一方、全く腰痛も下肢痛もない方の約7割には、画像(MRI)上ではヘルニアが存在するというデータがあります。また、画像上でのヘルニアの頻度は、痛みを持つ人と持たない人で同等というデータもあります。つまり、ヘルニアがあるから必ず症状を生じるわけではないのです。
- 筆者は、治療抵抗性の安静時のしびれに対し、うつ状態の有無にかかわらず、抗うつ薬を使用することがあります。神経因性疼痛に有効という質の高い論文があるからです。いたんだ神経自体をターゲットとするのではなく、痛みを感知する脳へ向かう連絡路に作用し、痛みやしびれ感覚を抑えようという考えです。
- 痛みに対する心構えは、
- 急性の痛みは、危険な痛みでないことを否定した上で、慢性化させないためには我慢せずできるだけ早く痛みをとる
- すでに慢性化し、かつ治療抵抗性の場合は、完治させることを追い求めるよりも、痛みをしびれを受け入れ、普段の活動性やQOLを高めることに重きをおくということになりましょうか。