老年期患者における自殺行動

藤武、加藤博之、伊藤栄近、川渕久司、永嶋太、戸塚和敏、大串和久、瀧健治 老年期患者における自殺行動 総合臨牀 2001;50(3):634-636

  • 65歳以上の高齢者では、自殺の頻度が高くなる。この現象は世界的にみても共通している。なぜ、自殺の頻度がたかまるのだろうか。社会的孤立、兄弟や親類の喪失体験、家族の支えを失うこと、慢性疼痛や日常生活動作の障害などの健康状態、抑うつや認知機能の低下の精神的な問題などを取り上げることができる
  • このような患者の治療として、従来の薬物療法や精神療法は重要であるが、それに加えて、懐旧談reminiscenceや人生の回顧治療life review therapyなどの過去の出来事や生き方を振り返りことが一時的には不安や抑うつや罪悪感、絶望といった症状を引き起こすことはあっても、生きがいを見出すきっかけとなり、残りの人生を豊にすることは確かなようである
  • 実際の診療場面では、老年期患者の懐旧談に耳を傾けることが治療関係の樹立だけでなく、抑うつ状態の改善に結びつく場合が多々ある。人生の回顧とは、過去の出来事を回顧するだけでなく、その過去の出来事を分析し、評価し、再構成し、再構築することにより、より良い人生への理解を経験し、意味を発見することもある。これは自己のパーソナリティの最終的な再生を目指すプロセスともいえる。すでに、過去を回顧する治療によって、うつ病の改善が見られたとの報告もあり、現在の自己評価は、過去の価値の評価に支えられている面もあり、その回想は治療的にも有効な操作である

吉田勝也、加藤敏 腰痛軽快後の自殺関連症状 −うつ病患者を対象にして pain research 2009;24:17-22

  • 腰痛は、その基盤にある器質的病変との間に大きな相関があることが予測される。しかし、Waddallによると、整形外科受診の腰痛患者の器質病変と腰痛の訴えとのそうかんけいすうは0.27であったといい、予測に反して、その相関はかなり小さい
  • 岸本によると、「痛み」は、体のいたみであることが暗黙の前提とされているが、実は「心の痛み」と「体の痛み」を明確に分けることは難しい
  • うつ病の症状に関して、腰痛群は頭痛群に比べて心気症状が有意に多かった。腰痛は心気的に訴えられてるといえよう。
  • この症例のあり様は、動きが少ないうつ状態というよりは、激しい腰痛の訴えという点で、活動性が高く、軽い躁状態と見た方が適切である。
  • 腰痛を訴えるうつ病患者は、頭痛を訴えるうつ病患者に比べて、うつ状態の中に、より多くの躁的成分が混入していると考えられる
  • 腰痛が軽快すると、患者は腰痛を訴えなくなる。そうすると患者は、うつ状態の中になる躁的成分がなくなる。そして、うつ病相が急速に深まり、自殺関連症状が出現すると推察される
  • 年齢を経るにしたがい、心気症状が目立つようになるといううつ病の特徴がある