長沼六一 心因痛患者の臨牀精神医学的研究 精神神経学雑誌 1977;79:41-66
- 難治性疼痛患者 痛みの発生のきっかけとしては、患者にとって最も重要な意味をもつ身近な人との分離体験がおおく、またその幼少期には両親との分離を経験しているものが多いことがあきらかになった。このことから、分離体験にともなう不安、疎外感、更には自分を捨てたものへの恨みの攻撃感情が、かつての幼少期の親子関係における分離不安を呼び起こし、それと密接に結合している痛みを身体上に生起せしめると考えた。
- 心因痛患者の中でも、その後痛みが心理的に発展加工され、痛み以外に自分の存在と社会的役割を証明するものすべてをうしなった状況に陥っている一群の患者たちがおり、著者はそれらの患者に対して、“痛みに生きる人”と名付けて、その現象的な概念の想起を試みた
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- Szasz 痛みとは、経験している人以外のいかなるものも同時に共感し、体験することのできないprivate dataに基づいて感じられるものである
- 痛み現象とはこの感覚と感情という2つの因子が複雑に混在している精神身体領域の問題である
- Hardy 痛みは一定不変の感覚要素と、受けた傷とは無関係にその場の状況や傷を受けた人に応じて変化する、不定な「痛みへの反応」とから成立している
- Beecher 痛みは一次的な基本感覚の意識内への出現と、それに引き続いておこる二次的な反応、加工成分により成立している。
- Laughlin overconcern with health
- 慢性疼痛患者
- 均衡のとれた親子関係を経験しているものは、ほとんどないといってよい
- 幼少期からの親子関係のなかで、なんらかの両親との分離体験を体験した患者が多い
- 家族内 母子 痛みを介して互いに共生関係にあるといった印象
- 社会的孤立化、家族内での孤立化
- 難治例 痛みの出現―失職―病院を転々―周囲の人々の病気を認めてくれぬことでの攻撃性の発露
- 身体症状を介して母子の強い固着
- 精神療法の実際
- 面接中はなるべく痛みに関する訴えを禁じ、主として精神生活の話題を提供するよう要求した 「痛みの説明は他の科の医者でして、ここでは痛み以外の話をしましょう」
- 社会言語を使用させずに、その患者にのみ固有の意味をもつ、特有な個人的感情体験を含んだ言葉、すなわち個人言語だけを使うように求めた
- 個人的交流の成立した症例では、痛みと自分の心的葛藤の間の心身相関についての解釈が受け入れられ、徐々に洞察も生まれ、痛みは必然的に消失した。
- かくして著者が痛みの訴えから、恨みや悲しみの感情表現への、翻訳者としての役割をはたして以来、患者は真の心身相関についての洞察をなした。
- 私はそのような対人関係の中で患者がどうしてもとらざるをえなくなる攻撃的態度、およびその奥にある人間不信こそ、解決せねばならぬ問題であると感じた
- 著者の解釈 「あらゆる対人関係の中で、すぐ相手に攻撃性を向けてしまい、自分の方からすすんで敵対関係のなかにはいってしまうこと」「痛み症状はそうした対人関係のまずさに基づく、現実からの逃避手段のようにしかみえないこと」「人間不信の根底にあるのは、あなたの求めた愛を満たしてくれなかったお母さんへの恨みであること」などであり、更には「そうした母への葛藤を解消しない限り、あなたの病院遍歴は今後も続くであろう」
- 「まわりとのいざこざが、あなたを孤立させ、このことは更にまた、あなたを痛みに固執させている」「今の崩れた対人関係を自分からととのえる努力をして初めて、あなたは痛みから解放されるはず」