慢性疼痛症候群とは

森本温子、牛田享宏 慢性疼痛症候群とは 理学療法 2011;28(6):760-767

  • 慢性疼痛は、原因として、身体的問題だけでなく、精神医学的、・心理社会的問題が複雑にからみ合って形成されており、個人の性格的傾向から発育・学習過程、家族背景とも関連しながら多彩な形で現れる
  • 近年痛みの基礎的研究は急速に発展を遂げ、末梢に器質的異常がなくと中枢の可塑的変化によって痛みが生じ得ることが明らかとなった
  • 末梢性感作
  • 中枢性感作 脊髄後角、扁桃体、前帯状回、前前島皮質
  • 慢性疼痛症候群の臨床像
    • 運動制限から、主婦、労働者、親、配偶者といった社会的役割を満足に果たせなくなると、無力感やいらだちを覚え、周囲との人間関係をこじらせていくようになる
    • 医療者に対する怒りや恨みが募っている場合もある
    • 身体的問題
    • 二次的な運動器の痛みと悪循環
      • 筋収縮の持続によって血流が不足し嫌気性代謝がおこると、産生された酸から局所のアシドーシスが生じ、内因性発痛物質が組織内に遊離されることも知られている。これらはポリモーダル受容器の感作要因の一つとなる。そして筋の収縮や伸長などの機械的刺激に対して新たな痛みを招き、さらに屈筋反射を更新させるという悪循環が起こる。また、痛み刺激は体性ー交感神経反射として交感神経活動を亢進させ、末梢血管を収縮させることでも循環障害を引き起こすという別の悪循環を起こす。
    • 治療に難渋する運動器の慢性疼痛
      • 筋肉の痛みは、画像解析などの客観的評価で捉えにくいことから見逃されやすい
    • 日常生活での問題
      • 慢性疼痛症候群ではペーシング(自分の状態に見合った活動量のコントロール)が不良であることも多い。極端な不活動は身体機能の低下を招くが、一方でオーバーユースも症状を悪化させる原因となる。痛みと上手く付き合いながら活動的な生活を送るためには、どういう活動が痛みの増減に関わるかを、患者自身の体験に基づいて”予期”し、適切なペーシングを獲得する必要がある。自己効力感の低下や知的レベルの引きさは予期を妨げる要因になる
  • 精神医学的問題
  • 心理社会的問題
    • 家族の問題、失業、患者本人や家族の病気、貧困、社会的孤立のような問題などが慢性疼痛患者の病歴に大きく影響していることが報告されている
    • 痛みの体験を通して形成された痛みへの過剰な恐怖心、恨み・怒りの感情、破局的思考などの心理的背景が、治療において問題となることも多い
    • これら心理社会的問題は痛みに対する執着や回避行動などとして表出され、それ自体が機能低下や苦悩を悪化させる。
    • fear-avoidance model
    • 回避行動を減らし、痛みに対する適切な対処(コーピング)を促すことが重要である
  • 集学的治療
    • 生物医学モデルから生物心理社会的モデルへ
    • 人の医学的な疾患を理解するには生物学的因子と同時に心理学的および社会学的因子の関与を考えるべきであると提唱する概念的モデル
  • 慢性疼痛症候群に対する理学療法の初期の目標設定を、”痛みを軽減する”か”機能的な改善とする”ととかは非常に重要な点である