下行性抑制系と慢性疼痛

小幡英章 下行性抑制系と慢性疼痛 麻酔 2005;54:S173-S182

  • 脳幹から脊髄後角に投射する抑制性の経路でよく知られているのは、ノルアドレナリン(NA)とセロトニン(5-HT)作動性下行性抑制系である
  • NA作動性下降性ニューロン
    • 起源 第四脳室外側部のlocus coeruleus(LC)
  • 5-HT作動性下降性ニューロン
    • rostal ventromedial medulla(RVM)
  • LC,RVMは中脳のperiaqueductal grey(PAG)からの線維によって、直接的な制御を受けている
  • モルヒネを全身投与したときに得られる鎮痛作用の一部は、NA,5-HT作動性下行性抑制系を介した作用であると考えられる
  • 下行性抑制系は持続的に活動しており、脊髄後角に入力された侵害刺激を抑制していると考えられる
  • RVMに存在する細胞は機能的に、ON-cell,OFF-cell,neutral-cellに分けられる
  • ON-cellは下行性促進(descending facilitation), OFF−cellは下行性抑制(descending inhibition)を惹起していると考えられる
  • 下行性促進系の活動が、炎症性疼痛や神経因性疼痛の維持に重要な役割を果たしていることが明らかになってきた
  • 慢性疼痛時には、下行性抑制系と促進系は同時に活性化されるため、どちらが優勢に働いているかによって、脳幹からの下行性制御が抑制性であるか、促進的に働いているかがきまる
  • 炎症性疼痛 一次性痛覚過敏、二次性痛覚過敏
  • NRMやLCからの下行性抑制系が、炎症性疼痛時の一次性痛覚過敏の形成を強く抑制していることが示唆される
  • 二次性痛覚過敏に対しては、下行性ニューロンは疼痛促進性に働いている
  • 末梢への起炎物質の投与によって、RVMのNMDA受容体やニューロテンシン受容体を介して下行性抑制系が活性化され、二次性痛覚過敏を生じているものと推察される
  • 神経因性疼痛の動物モデルにおける下行性疼痛調節機構は、RVMからの疼痛促進系が優勢となり、異常な痛みを惹き起こしていることが示唆される
  • 神経因性疼痛時には健常な部位に対して、通常より強い下行性抑制がかけられている可能性が示唆される
  • NAを髄腔内投与すると急性痛を抑制することができる。主たる作用は脊髄後角のα2受容体を介した作用。神経因性疼痛に対しては脊髄のα1受容体を刺激しても鎮痛効果は得られず、α2受容体が重要な役割を果たす。
  • α2受容体には3種類のサブタイプ(A,B,C)が存在
  • クロニジンのような、非選択的なα2受容体作動薬を髄腔内投与したときに得られる急性痛に対する鎮痛作用には、α2A受容体とα2C受容体がともに関与する
  • クロニジンの髄腔内投与による神経因性疼痛の抑制には、Achの果たす役割が増している可能性がある
  • 脊髄後角で疼痛制御に関与しているのは5-HT 1A, 5-HT 1B,5-HT2, 5-HT3受容体であると考えられている
  • 5−HT2受容体は本来、興奮性の受容体であることから、5-HT2受容体作動薬の髄腔内投与は、他の神経伝達物質の放出を介して、神経因性疼痛を抑制している可能性が高い
  • 脊髄後角のコリン作動性ニューロンムスカリン受容体は、NA,5-HT作動性下行性抑制系による神経因性疼痛の抑制に、非常に重要な役割を果たしていることが示唆される。