疼痛と精神科 1

西松能子 疼痛と精神科 麻酔 2003;52:S83-93

  • 原因不明の疼痛の訴えの3割から4割の症例は、身体的原因、心理的要因のいずれも特定されない
  • しばしば精神科において、心因すなわち明らかな社会心理的適応不全や心理的要因を見いだせないような場合がある。通常どこにでもあるような、ささいな社会的不適応に漠然とした不安、心理的不調に加えて、ただ患者の“痛い”という訴えのみが存在する
  • 特に社会的に、“心の痛み”が受け入れられにくく、“体の痛み”は受け入れやすい土壌のある日本においては、あきらかな社会的不適応や心因がない場合も、社会的心理的な不適応感が主観的体験としての“疼痛”に転化しやすい傾向がある。
  • 精神科医は疼痛をうったえてコンサルテーションされてきた患者において、どのような“痛み”について最も新院が関与している可能性があると考えるかというと、逆説的であるが、心理的な環境変化を含めて状況によって、“変化しない疼痛の訴え”である。
  • 疼痛が状況の変化によって増減せず、気晴らしや鎮痛剤によって一時的にしろ、なんら緩和されない場合は、何らかの形で心因が関与していると疑うべきである。
  • 器質的原因のある痛みならば、原因である器質的原因の強弱にのみ左右され、状況によって変化しないはずと考えがちであるが、実際には身体因による疼痛は状況によってしばしば和らいだり強まったりする。
  • 痛みに心理的問題が関与している場合は、“痛み”の訴えによって精神心理的問題を防衛している。
  • 精神科コンサルテーションの試みが、疼痛患者に受け入れられた時点で、精神科的アプローチの第一段階は終了したといえよう。
  • 精神科にコンサルテーションされてくる“疼痛”の訴え、すなわち身体的に原因不明の痛みの訴えに関与する可能性のある精神科疾患は大きく3つに分けられる
    • 身体表現性障害、うつ病、不安を中心とする障害
  • 身体表現性障害
    • 心理的な葛藤(悩み)が身体症状として表現される精神科的障害の総称
    • 下位分類 身体化障害、転換性障害、疼痛性障害、心気症、身体醜形障害
    • 疼痛性障害
      • 疼痛の訴えがなんにもまして優先され、訴えの中心にあり、そのため頻繁に医療にかからなければならないほど疼痛が存在する
      • その結果、社会的、職業的、日常生活上さまざまな困難が生じてきている
      • これらの疼痛は、患者自身の身体状態からは十分に説明できず、一方、心理的要因が、疼痛の発症、重症化、悪化、または持続に重要な役割をはたしていると判断されうるものである
      • 他のうつ病や不安障害などの痛みを生じやすい精神科疾患との関連もないことが重要である。
      • 疼痛は、特に原因が特定できず慢性化した疼痛は、抑うつや不安をもたらしやすい。時には睡眠中に痛みによって起こされるのではないかという予期不安によって入眠困難を生じることがある。
    • うつの一臨床症状としての疼痛の訴え
      • うつ病における痛みは、頭痛が最も多く、首や肩、背中や腰、胸内苦悶感など多岐に及ぶ
      • 疼痛もまた、うつ病のひとつの特徴である日内変動(午前中症状が重く午後に警戒する)を呈することが多い
    • 不安障害の一臨床症状としての疼痛の訴え
    • 意図的に作り出される痛み 詐病虚偽性障害