高齢者の痛みの実態

須貝佑一 高齢者の痛みの実態 老年精神医学雑誌 2006;17(2):152-157

  • 進行した認知症は痛覚の鈍麻を起こしやすい。痛覚の変化は神経細胞の変性過程と関連する。初期認知症は心気症や慢性疼痛のかたちをとることがあり、注意が必要である。高齢者の痛みは環境、心理的要因がくわわって遷延しやすい
  • 進行したADでは前帯状回頭頂葉一次体性感覚野の神経細胞の脱落が著明になる。この変性脱落の結果として痛み刺激の知覚や情動的な反応に変化が起こる
  • 痛みを近くしてもそれがなにか識別できない。痛みの記憶がなく、痛むかもしれないといった予知ができない。ADではこうした痛みの認知障害と反応の変化が次第に深化していくため、われわれが日常観察する不可思議な事態が生じるものと推察される
  • 肛門のヒリヒリ感の訴えが葛藤や不安、怒りなどの心的負荷の身体化であるならば、訴えはこの人にとっては大切な心理的防衛機制でもある。
  • 10数年前に生じた生活状況のなかで自己の葛藤を抑圧、否認しつつ症状が慢性化し、今では日常生活のなかで適応が出来上がってしまったとみることができる。そうすることで現在の生活の破綻を防いでいる。痛みを訴えに病院へ通っていることは本人には大切な事である。そのことに医師が思い至れば、身体的愁訴に耳を傾け、診る、触れるという診察がいかに重要な意味をもっているかがわかる。
  • 高齢者の心気症について竹中は診療を通して身体的苦痛を共有することが治療的に重要であることを強調している。
  • 悩むがゆえに痛み、痛むがゆえになやむ高齢者の姿である。心身一如という言葉が高齢者の痛みの本質を言い当てているように思われる