谷川浩隆 運動器疼痛に対する心身医学的アプローチ 心身医 2010;50(3):237-244

  • 変性疾患などの器質的疾患をベースにした運動器疼痛の症状の消長には、心理社会的要因が深く関与していることがある。しかし心理社会的要因をもつ患者ほど、疼痛の原因はあくまで器質的なもののみであると確信し、自己の心理的要因をことさら否定していることが多い。
  • 骨痛は骨粗鬆症、骨転移などが原因であるが、心因性のものでは病名告知をきっかけに痛みが出現したり不安と同期して痛みが増強する。
  • 患者の職業や家庭環境の把握は心理的要因の解明に重要である
  • 一般的身体科を受診する患者は、器質的疾患を確信し身体的治療を期待して受診するため、身体症状以外のことを自ら積極的に話すことは少なく、職業や家庭環境について過度に詳細な質問をされると、医師に対して警戒心や不快感を抱くことがある
  • 問診 支持的態度で傾聴してストレス要因を引き出すことにより背景に迫ることができる
  • 一見普通にみえる家庭でも、詳細に聞くと何らかの家族間の問題があることはきわめて多い。少なくとも同居している家族の構成はどのような疾患でも聞いておくべきである
  • 痛みと抑うつがそれぞれお互いに作用しあって患者を萎えさせる方向にらせん形に循環していく状態は、まさに「痛みとうつのデフレ・スパイラル」である
  • 心因の関与している運動器疼痛の患者に対して心理的治療の専門外である整形外科医が、心理的要因に気づかずに治療にあたってるにも関わらず、良好な患者ー医師関係を構築していることがほとんどである
  • これは医師が心理的要因にまで思い至らず、どこかに必ず身体的要因があるのではないかと考えて診察治療を進めることが、身体疾患を確信している心身症患者のニーズにまさしく合致するからである
  • 腰痛症と診断されれば腰痛の原因は器質的だが、腰痛症と診断されなければ心因性と考える、というような二者択一ではなく、ひとりの患者に心因と器質因の両方が複雑に絡み合っていることを考えるべきである
  • 筆者は整形外科専門医であるが、精神科のごく初歩的な研修を行った後、心身医学的アプローチを日常診療にとりいれている
  • 多くの診療科で心身医学的アプローチが取り入られてきている現在、内科・外科についで医師数が3番目に多い整形外科でもそのような方向性が育つべきである