- 侵害受容器の興奮を伴わない疼痛を病的疼痛と呼ぶ
- 「心頭滅却すれば火も涼し」の言葉からの想像できるように、われわれヒトは疼痛を大脳認知レベルで修飾することが可能である。
- 感覚情報はS1だけでなくM1にも連続的に入力し、また運動出力時にもS1が活性化することが示され、感覚系と運動系は分離して活動しているわけではないことが示された
- 幻肢痛、CRPS患者では患肢の体部位再現地図が縮小し、顔面の領域が拡大している。
- 患肢の体部位再現地図の書き換えの行動面での変化は、顔面に触れられると患肢に触れられているような錯覚が生じることで示されている
- このような患肢の体部位再現地図の縮小の程度が幻肢痛、CRPSともに病的疼痛の強度と相関し、末梢神経系の損傷、機能変化であっても大脳レベルで機能再構築がおこり、それが病的疼痛の発症原因の一つになっていることが示された。
- 感覚運動皮質の体部位再現地図は、熟練した楽器奏者では手の領域が拡大し、感覚運動皮質からの運動出力と感覚運動皮質への感覚入力の情報量に依存して機能再構築がおこる。このことから幻肢痛やCRPSでは、患肢の神経障害による体性感覚入力の減少や運動量の減少(運動情報の出力の減少)によって体部位再現地図が縮小していると考えられる。
- リハビリを中心とした治療によって大脳レベルの感覚運動皮質の機能再々構築を惹起して正常化する結果、病的疼痛が緩解するという機序に基づくことが脳機能画像研究によって裏付けられたと言える
- 多感覚情報を統合して形成される知覚ー運動ループは自己身体の認知に関わり、感覚情報の中でも視覚が最も重要な役割を果たす
- このような視覚の優位性を、健常者を対象に鏡を用いて上肢の視覚的な運動感覚と体性感覚的な運動感覚を解離させ、上肢の知覚ー運動ループを破綻させると、病的疼痛をはじめとする異常感覚が生じさせることが報告されている
- 知覚ー運動ループの観点から神経障害性疼痛患肢について考えると、「脳からは患肢を運動する指令が常に発動されているが、実際には神経障害のために患肢の運動が起こらないために感覚情報のフィードバックが欠損し、運動予測との間に解離が起き、知覚ー運動ループの整合性が得られない」状況と考えることができる
- 視覚情報に加えて、神経障害により運動不全を呈する患肢を受動的に運動させることよって体性感覚情報も同時に入力するロボットスーツを共同開発中である
- 病的疼痛は侵害受容器の刺激がなくとも発症し、大脳レベルで知覚される。また、末梢神経由来の生理的な疼痛であっても大脳レベルでの機能変化を引き起こし、それが更なる病的疼痛を生み出すことが明らかになっている。さらに疼痛は、身体部位認知の障害や高次認知機能、視空間知覚障害など高次認知機能にも影響を及ぼすこと明らかになっている
- このように疼痛は大脳で認知され、さらに大脳認知機能に影響を与えていることから、高次脳機能を修飾する神経リハビリテーションによって疼痛治療を実践することが必要であると考えている