住谷昌彦、宮内哲、植松弘進、山田芳嗣 Complex regional pain syndrome(CRPS)の中枢神経異常と新規治療 臨床脳波 2010;52(10):549-555

  • ヒト脳は、自己身体と対象物の位置関係に基づいて空間を認知する様式(自己中心座標軸)と空間内に存在する複数の対象物同士の相対的な位置関係に基づいて空間を認知する様式(物体中心座標軸)の2様式を統合して空間を正確に認識している
  • CRPS患者は明所では正確に視空間を認知できるが、暗所では患側方向に視空間知覚が偏位していることを明らかにした
  • 暗所条件での結果から、CRPS患者は自己中心座標軸が傷害されているといえる
  • また明所条件での結果から、CRPS患者は傷害された自己中心座標軸を正常な物体中心座標軸で代償していることがいえる
  • 眼前に提示された標的に対するポインティング動作課題を明暗2条件でおこなわせた
    • 健肢は明暗条件にかかわらず一定の運動精度
    • 患肢は暗条件では健肢と同等、明条件ではあきらかに運動が不正確
    • CRPS患者の患肢の運動障害は暗条件では観察されなかったことから、末梢筋骨格系の異常に起因するものではなく、中枢神経系の障害に起因することを示唆
    • 暗条件では上肢の視覚情報が得られないため体性感覚情報だけに基づいて上肢運動は制御されているが、明条件では視覚情報と体性感覚情報を統合して制御されている
    • したがってCRPS患者の運動障害は患肢の視覚情報と体性感覚情報の統合の障害に起因すると考えられる
    • CRPS患者の運動障害に関連する脳領域 下前頭前野、後部頭頂葉(各種感覚情報を統合する脳領域)
  • ヒトの自己身体の認知に関しては体性感覚情報よりも視覚情報の方が優位。さらに身体部位の視覚情報と体性感覚情報が合致しなければ自分の身体の一部であると認知できない
  • 知覚ー運動ループは病的疼痛の発症メカニズムと密接に関わっていることが示唆されている
  • 視野偏位プリズム順応で視空間知覚を矯正することによって、患肢の身体帰属感も回復(無視症状が寛解)し、さらにCRPS患者に観察される明暗条件での運動制御能の違いもほぼ正常化されたので、患肢の視覚情報と体性感覚情報が再統合されていると考えられる。そして、その結果、知覚ー運動ループの再統合と病的疼痛の寛解が得られたと推察している