南雅文 最近の知見から 痛みと情動系 痛みによる不快情動生成の神経機構 理学療法 2009;26(3):442-447

  • 扁桃体は、中心核や基底外側核、外側核、皮質内側核などの複数の亜核から構成されており、亜核間でも機能差があることが知られている
  • 扁桃体での情報伝達は体性痛では、まず基底外側核に情報が入力され、次に中心核に伝えられ不快情動が惹起されるが、内臓痛では、基底外側核を経由せず、中心核にちょくせつ情報が入力され不快情動が惹起されるものと考えられる
  • 扁桃体基底外側核におけるNMDA受容体を介したグルタミン酸神経情報伝達の亢進が、体性痛による不快情動生成に重要な役割を果たしていることが示唆された
  • ホルマリンによる持続的な痛みにより基底外側核でのグルタミン酸遊離量が増加し、NMDA受容体を介した神経情報伝達が亢進することにより場所嫌悪反応、すなわち不快情動が惹起される。基底外側核に投与されるモルヒネは、グルタミン酸作動性神経にシナプス前性に作用しグルタミン酸遊離量を抑制することにより不快情動を抑制している可能性が考えられる
  • ホルマリン後肢皮下投与および酢酸腹腔内投与にいづれにより惹起される場所嫌悪反応も分界条床核の破壊により消失したことから、痛みよる不快情動生成に分界条床核が重要な役割を果たしていることが明らかになった。
  • 痛み刺激により腹側分界条床核内でノルアドレナリン遊離が促進され、このノルアドレナリン遊離が促進され、このノルアドレナリンによるβ受容体を介したcAMP-PKA系の亢進が、痛みによる不快情動生成に重要な役割を果たしていることを示唆している。
  • 扁桃体およびその関連領域に加え、痛みによる不快情動生成に関与するとして注目される脳領域に前帯状回がある
  • 帯状回でのグルタミン酸神経情報伝達の亢進が、体性痛による不快情動生成に重要な役割を果たしていることを示した。
  • 痛みにより惹起される不安、嫌悪、抑うつ、恐怖などの不快情動は、生体警告系としての痛みの生理的役割にとって重要である。しかしながら、慢性疼痛では、これらの不快情動は、生活の質QOLを著しく低下させるだけでなく、精神疾患や情動障害の引き金ともなり、また、そのような精神状態が痛みをされにあっかさせるという悪循環をも生じさせ、患者の身(からだ)だけでなく心(こころ)をも苦しめる。痛みによる不快情動生成の脳内メカニズムを明らかにし、身と心の両方を苦痛から解放することが、21世紀の疼痛治療には求められる。