痛みの病態生理 第13回

熊谷幸治郎 療法の考察:薬物療法および神経ブロック療法の病態生理学的考察 理学療法 2008;25(12):1678-1685

  • 神経ブロックとは、神経に局所麻酔薬や高周波の熱を加えることで、痛みの伝達を休ませる治療である。決して神経を壊すわけではない。痛みを軽減するのみでなく、血行を改善し、筋肉の緊張をゆるめる作用がある
  • ケガの痛みや原因のはっきりしている痛みは手術療法や薬物療法で治すことができる。しかし、こうした慢性の痛みは手術や薬では治せない
  • こういった場合に局所麻酔薬を用いた神経ブロックを行い、一時的であっても痛みを軽減させることは、同時に痛みに対する不安を軽減させる効果もあり、治癒に至るまでのQOL改善に大いに役立つ。近年の研究によると、持続した痛み刺激があると、末梢神経、脊髄、脳の中枢神経レベルで可塑的な変化が生じ、治癒困難な慢性痛を発生させることが、基礎研究から明らかになってきた。したがって、長期にわたる痛み刺激を一時的にでもブロックすることは、慢性痛の発生を予防する可能性があると考えられている。
  • 一時的ではあっても痛みを減らすことにより、それまで痛みに苦しんできた患者とのコミュニケーションをとるきっかけ、信頼関係を築くきっかけとなり、患者自身の痛みに対する姿勢を前向きなものにするきっかけにさえなることをすくなからず経験する。
  • 神経繊維は太い順に運動神経、知覚神経、自律神経である。局所麻酔薬は線維の細いものから作用するため、適切な濃度の局所麻酔薬を用いることで痛みを伝える知覚神経のみを遮断し、他の知覚や運動神経を保つことが望ましい。
  • 一般的に局所麻酔薬の作用時間は数時間であるが、神経ブロックを行った際には、局所麻酔の作用時間を過ぎた後にも、長時間除痛が得られ、鎮痛効果が続く場合が多い。これは痛みが作り出す悪循環を遮断することによると考えられる。
  • 局所麻酔中毒 多弁、興奮、嘔気嘔吐からはじまり、けいれん、ショックが生じ得る
  • 脊髄電気刺激療法
    • 神経の伝達する信号を変化させることで疼痛軽減を得る方法。一般に侵害性疼痛には効果がなく、神経因性疼痛が適応になると考えられている。
  • 慢性疼痛では完全な除痛を得る決定的な治療法がない。長期にわたる根気づよい継続的なケアが必要である。患者本人の慢性疼痛に対する適切な認識、そして治療におけるゴール設定が無痛鎮痛ではなく、QOLの維持改善であることを理解する教育が重要である。
  • 痛みわずかでも軽減することを目指しながらも、同時に痛みをゼロにすることは容易でないことを理解した上で、痛みを恐れすぎず、上手につきあいながら、日常生活を送らせるように指導することが大切である。