心と体の「痛み学」2

心と体の「痛み学」―現代疼痛医学はここまで治す

  • p359-360
  • マーガレット コーディル ダートマスヒッチコッククリニックで疼痛医療を担当 行動医学の専門家 痛みに負けない方法(managing pain before it manages you)の著者
    • 彼女の観察によれば、疼痛患者は次のような態度を見せるという。「私は、長年痛みに苦しんできた患者にしばしば出会うが、かられは自分で痛みを管理するのはいやだ。絶対に嫌だという態度を見せることがある。どうしても痛みを受入れることができないのだ。しかし、受入れなければ、決して痛みは治らない。彼らには2つの選択肢がある。痛みが自分の人格の一部であるかのように振る舞って、だれも相手にされず、しかめっ面のまま生き続けるか、痛みを自分で管理するか、どちらかなのだ。」
    • 痛みを受入れるためには、深い悲しみを乗り越えなくてはならないからだ。治癒の意味をあらためて考え直し、痛みと共存するための、あるいは痛みを消すための生き方を考えていかなくてはならないのである。病気が治るということ、元気になるということは、同じ意味ではないと悟ってはじめて、痛みを受入れることができるのだ。
    • 痛みを受入れる過程で一番障害となるのが、「治らないはずがない」という心情だ。その心情のあらわれが、「走って、ぶつかって、燃え尽きる」とコーディルが表現する行動である。
    • 彼女によると、「患者たちは順応性がなく、痛みに適応できない。そのため、痛みがなかったと同じように、普通の生活を続けようとする。フルタイムで働き、運動し、レジャーをする。すると痛みで倒れることになる。つまり自分のペースをつかむことができないのだ。たとえば、痛みがあるのに、何時間も台所で立ち仕事を続けてしまう。しかし、痛みがあるなら、立ち仕事は時々休んで、その間に、家計簿をつけるといった、坐ってできる仕事をすればよいのである。」
    • コーディルの行動療法では、三つの手法が柱になっている。すなわち、リラクゼーション、思考パターンを変える方法、人とうまくつきあう方法の三つである。いづれの手法も、患者の積極的な参加が必要で、疼痛管理法、必要に応じて痛みを忘れる方法、そして気持ちを穏やかに鎮める方法、を学習し、実習する。
    • 行動療法の最も重要なテーマは、いわゆる「対処行動」を患者に習得させることである。
  • デービッド エイハーン MGH 行動医学専門
    • 慢性痛の患者は常に痛みにつきまとわれ、痛みに支配される人生を送っている。患者たちは生き甲斐を失い、大切にしていた趣味や日課をあきらめなければならない。
    • 「ほとんど不可能とわかっている治癒を一生待ち続けるか、それとも、いろいろな対処行動をおぼえるか」、どちらを選ぶかとエイハーンは患者に尋ねる。対処行動は、痛みの専門医ならだれでも知っており、簡単で単純な行動である。(リラクゼーション、痛覚を忘れるディストラクション、生活パターンの習得、適当な運動、体調を整える体操、そして痛みを悪化させる習慣(大量の飲酒やテレビ漬けの生活)の改善など)