本田哲三 慢性疼痛とリハビリテーション  ペインクリニック2007;28:S205-215

  • 認知行動療法にいたる疼痛理論の変遷
    • 1964 デカルト 疼痛は感覚的体験の一つ。その程度はおおむね組織障害の程度に一致する
    • 1959 Engel 器質的原因に乏しい痛みの訴えを心因性疼痛と名付けた
    • 1965 Melzack & Wall gate control theory 疼痛体験は単に末梢から中枢への一方向の感覚でなく、中枢からの関与(感情や認知の要素)や脊髄後角での神経線維間の活動量の競合の結果である
    • 1968 Fordyce 慢性疼痛患者が執拗に痛みを訴え続けるのは、その行動により、患者にとっての好ましい結果(例えば休息、補償金、家族からの介助、病院への通院などの心理学で強化因子と呼ばれる諸要因が得られるためだと考え、疼痛行動を無視した上で身体活動量をざん増しているプログラムを編み出した
    • 1958 Fahmi 整形外科領域 back education その後Swedenでlow back school
    • Loeser 疼痛体験がnociception(侵害刺激),pain(疼痛感覚),suffering(苦悩),およびpain behavior(疼痛行動)の4相からなるとした多相的モデルを提唱
      • 苦悩は中枢での陰性の情緒的反応を指す。したがって苦悩は注意不安抑うつなどの心理的要因により影響される。患者の疼痛行動は苦悩の表現であると同時に強化子により増強される
    • 1999 Melzack 疼痛の伝達と抑制に関するダイナミックなマトリックスモデルを提唱
  • 疼痛は単に知覚体験や心理的要因に帰せるものではなく、身体ー心理ー社会的に包括的な理解が必要である
  • 1986 IASPの疼痛の定義
    • 実際のおよび潜在的な組織損傷に関係、あるいはそのような損傷に関連して述べられるような不快な知覚および情緒的な体験
  • 慢性疼痛の診断
    • 1987 DSM-IIIR 身体表現性障害
    • 1994 DSM-IV 疼痛性障害 DSM-IIIRから心因性、身体表現型などの形容詞を排除した
  • 治療
    • 著者の持論では慢性疼痛は過度の医療依存であり、軽症例では本人の身体痛みについての認知の変容だけで十分 一方社会経済的問題が絡んだり(疾病利得)、心理精神的な病理が重篤なケースでは個別ケースワークカウンセリングが必要
  • プログラム施行上の留意点
    • 安易に心因性疼痛と決めつけない 患者にとっての痛みは真であるとうけとめる
    • 痛み障害的に対応する
      • 医療従事者がすべての痛みを取り除ける訳ではない。痛みが必ずしも身体の重篤な障害を意味しない。適切な身体活動はかえって痛みを減少させる。痛みがあってもそれなりに生活を充実させていくことが長期的には痛みの軽減に繋がる
  • 慢性疼痛の脳内基盤