熊澤孝朗、山口佳子 慢性痛症の取り扱い ストレスと臨床 2005;24:34-37

  • アメリカ議会 2001年からの10年を痛みの10年とすることを採択
  • 原因病巣が治癒しているにもかかわらず痛みを発し続けることがある。これは神経系に出来上がってしまった可塑的な歪みによって引き起こされる痛みであり、痛覚受容器の興奮とは関係なく起こる
  • 日本において国際疼痛学会の基準を満たす学際的痛みセンターはない
  • 痛みセンター
    • 身体を動かすことに重きがおかれている
    • ゴールの大筋
      • 機能を最適レベルに回復させる
      • 痛みを減少または除去する
      • 習慣的な服薬を減少または除去する
      • 医療機関にたよらずに生活できるようにする
      • QOLを改善する
    • ゴールは具体的なこと、つまり何ができるようになるかということで設定する。

金 外淑 慢性疼痛に対する認知療法 ストレスと臨床 2005;24:38-41

  • 慢性疼痛患者
    • 極端に身体をうごかすことを避ける傾向
    • 痛みの原因が分からない状態が続くと、日常活動の低下とともに、身体の苦しみはもとより、不安、うつなどの精神的症状がみられ、自信をなくすことも少なくない
  • 痛みという症状の背後にある心理的特性をよく理解し、症状がどのような問題から起きているかを明確化することにより、治療の見通しを立てやすくする。
  • 認知行動療法
    • その人の思考や信念、思い込みなどに認知的要因に積極的に働きかけ、感情や認知のパターン(考え方のクセ)を修正する治療法
  • 介入例
    • 前の会社の仲間を会わない(前の職場や労災のことを考えるだけで怒りや感情がこみ上げてきて身体症状や痛みが増悪)
    • 治療の期間中は同僚からの電話を受け取らない(励ましの言葉がむしろ感情を刺激し、疼痛行動を増強する)
    • 家事の手伝いなど家庭内における役割を工夫
    • 日常生活の中で軽い運動を取り入れる
  • 痛みに対する患者自信の考え方や受け止め方を変えるため、まず、怒りをめぐる葛藤に注意を向け、ある出来事にきたいどおりの評価はうけられないことは、自分のせいでないこと、抑圧されている感情は本人の意志と関係なく、様々な痛みの症状として身体に現れることに気づかせた。

久保千春、細井昌子 慢性疼痛とうつ ストレスと臨床 2006;26:32-37

  • 慢性疼痛は組織損傷を知らせる警告反応としての役割が消失しており、疼痛行動が患者の周囲の重要な人物との交流パターンに組み入れられていることが多い
  • うつ病はバックグランドの無意識的否定的気分や意識的悲観的な思考パターンに特徴づけられる気分障害であり、セロトニンノルアドレナリンといった脳内神経伝達物質によって媒介されるシナプス伝達に乱れが生じている疾患である。
  • 脊髄視床路のうち脊髄の前外側索を上行する線維は脳幹で、外側系と内側系に分かれる
    • 外側系 視床の外側腹側核に入り、大脳皮質の体性感覚野に届いて痛みの識別的側面を担う
    • 内側系 視床の髄板内核に入り、大脳皮質の広い領域に投射して、局在のはっきりしない不快な痛みの経験の部分を担う 痛みの情動側面を担う
  • 痛みの多面的評価
    1. 生物医学的な器質的および機能的病態
    2. 不安抑圧などの情動的変化
    3. 人格傾向および人格障害発達障害の有無
    4. 痛みにたいする認知と対処法
    5. 行動医学的な疼痛行動の分析
    6. 痛みのための身体障害による生活活動の障害
    7. 家族や社会での役割機能の障害と家族社会システムにおける痛みの役割
  • 痛み体験に影響を与えている痛み以外の問題点を把握することが可能となる
  • 慢性疼痛の診断治療が生物医学モデルにとどまることなく、生物心理社会モデルでの患者理解、人間理解として一般医療にさらにひろまることを、今後も心身医学分野から語りかけたい。