慢性疼痛に対する心理的アプローチ ー嫌悪現象との付き合い方を習得するレッスン

細井昌子 慢性疼痛に対する心理的アプローチ ー嫌悪現象との付き合い方を習得するレッスン 医学と薬学 2020;77(1):47-52

  • 「何か大きな身体疾患がこれから発症するのではないか」という不安が脅威となり、慢性の痛みを抱えたまま日常の生活を楽しむには、「気になる悩みとどうつきあうか?」というむずかしいスキルが必要になる
  • 個人の考え(認知)・情動・行動がどう痛み障害に影響を与えるかについての心理教育は有用であり、痛みの持つ脅威性を治療対象に、考えや行動をしなやかにして問題解決能力を高め気持ちを軽くする方法としての認知行動療法は有用である
  • 痛みの部位や強さを伝える経路 外側脊髄視床路 有髄線維(Aδ線維) 体性感覚野(S1,S2)
  • 痛みの不快感を伝える経路 内側脊髄資料ろ 無髄神経(C線維) 前部帯状回や島皮質
  • 社会的な疎外・不平等・劣等感・死別などの不快感も前部帯状回や島皮質を活性化
  • 身体的疾患で痛みが発生しているときに心理社会的ストレスが合併すると、末梢からの身体的要因で外側脊髄視床路と内側脊髄視床路を介して不快な感情・情動体験が発生するだけでなく、ソーシャルペインが合併することで、痛み体験の不快感が贈位するメカニズムがある
  • 末梢からの身体的痛みがあるだけでも脅威を覚える状態になっているところに、心理社会的ストレスにより痛みの不快感が増大すると、冷静な対応ができなくなり、心理的に不安的になることで本人をとりまく周囲の人々との交流に障害が起こりやすくなる
  • そのため、本人の悩みが「痛みとどう付き合うか」ということだけではなく、痛みが起こる前からあった「嫌悪的な感情や対人交流の障害=嫌悪的現象」が本人の日常的な苦悩のなっていく
  • つまり、慢性的な痛みがあると、痛みそのものについてだけでなく、不快情動や苦手なん人間関係に対しても悩みが増えていくという状態に対して、さまざまな心理的アプローチが本人の日々の対処法として有用になる
  • 一般的な治療法と同様に、治療関係における信頼の形成が十分でないと、想定される有用な効果が得られにくいのも事実である
  • 独特な認知・感情・行動の様式が病態評価の対象となる。実際難治化した症例での重症感は、受診前の予約の段や受診当日の受付スタッフとの交流不全から実感される
  • そういった対人交流での問題の原因は、慢性疼痛患者がこれまで体験してきた対人交流での否定的な体験にさかのぼることが多い
  • 独特な対人交流様式を理解するには、現在抱え込んでいる心理社会的ストレスとともに、幼少期・学童期・思春期から蓄積されてきた生活環境でのストレスや本人のストレス対処能力を検討することが有用である
  • 生活環境でのストレスを聴取する際に有用となるのは、「強いものが弱いものを攻撃する」というストレスを受けていたかどうかであり、このストレスは近年動物実験では「社会的敗北ストレス」という用語で表現されている
  • 慢性疼痛難治例では、過去の人間関係における悲惨な体験により相手の言動への信頼を得られないために、常に疑心暗鬼になり、独特の論理をもって治療者をコントロールしようとする場合があり、治療者にとっても心理的負担が生じ、交流不全になることがある
  • 心療内科では、過去や現在の医療においての行き違いを伺うことも多いが、患者の経験してきた幼少期・学童期・思春期でのいわゆる「社会敗北ストレス」が現在の対人交流や日常の不快感情に影響していることもおおく、現在の瞬間に集中できない心理特性が悪影響を与えている
  • 従来の治療法が走行するためには、慢性疼痛患者のオンリーワンの過去と現在の心理社会的因子に注目し傾聴することが重要
  • 次に失感情症 自身の感情への気付きの乏しい心理特性が慢性疼痛の難治化に大きく影響している
  • 心身の苦痛・苦悩への救済を求めて医療機関に来院したものの、自身の苦しさや本音を医療者に伝えられた実感がなく、「わかってもらえない」と嘆く状態に陥りやすく、周囲との交流不全が起こり、通常有用な心理療法が走行しない土台になっている
  • 不快情動や対人交流に対する対処法は、痛みに情動成分の軽減に大きく役立っている