痛み誘発負情動から考える”心”の起源

加藤総夫 痛み誘発負情動から考える”心”の起源 医学のあゆみ 2010;232(1):14-20

  • ”痛み”の生物学的本質は単なる侵害受容ではなく、それによって生み出される”苦痛”にある
  • ある感覚事象が”有害”であることを”本能的”あるいは”直感的”に個体に認識させる方法として、地球上の生物はさまざまな感覚によって伝えられる事象の有害性を判定し、その下流神経回路に命令を出して最適な行動・内環境の変化をもたらすような機能を獲得した。それがおそらく”情動”の起源ではないかと想像される
  • 興味深く、また重要なことは、これらの”原始的”な感覚がいづれ視床および皮質をバイパスして扁桃体あるいは拡張扁桃体に直接投射する神経回路をもっているという事実である
  • CeLC (扁桃体中心核外側外包部;leterocapsular part of the central amygdala) は侵害受容性扁桃体とよばれている
  • この脊髄ー腕傍核ー扁桃体路の意義は、侵害受容器からの入力をうける脊髄後角浅層からの嗅覚や味覚と同様に、視床を介さずに、腕傍核でのシナプス一個のみを介する興奮性投射路であるというその直接性にあり、この系は痛みの強さの分析ではなく、直接的な情動応答の誘発に関与していると想定されている
  • 扁桃体は非常に高いシナプス可塑性を示す領域である
  • 一週間以上にわたる持続痛による扁桃体シナプス伝達増強の”固定化”が、慢性痛の本態である「原発性の組織障害や強い侵害受容なしに生じる強くかつ持続する負の情動」を作り出す脳内機構である可能性を著者らは提唱している。
  • 情動は痛みなどの感覚情報の結果として生じる最終産物ではなく、むしろ、その感覚情報に基づいて独自の活動を形成し、それに基づいて感覚情報の感度を調整・制御することによってその情報の意味を修飾する外界への”適応機構”であるとはいえないであろうか