原始感覚による情動の生成とその破綻

福士審 原始感覚による情動の生成とその破綻 医学のあゆみ 2010;232(1):3-6

  • これらの感覚、すなわち嗅覚、味覚、内臓感覚、そして痛覚は、視覚や聴覚などと異なり、感覚そのものが無条件に個体の生存にとって価値をもち、それゆえに生得的に快・不快情報と結びついている。この点においてこれらの4つの感覚は原初的かつ根源的な感覚であり、原始感覚とよぶべきものである。
  • 本来生体を守るはずの免疫系の異常によりアレルギーや炎症性疾患がおこるのと同様に、生体防御システムである情動系の異常がうつ病や不安障害などの精神疾患を引き起こす。
  • 生体に感覚情報が入ると、生体にとっての価値に応じて自律神経系や内分泌系の変化が生じる。心拍数やストレスホルモンなどがその代表である。その応答の蓄積によって外環境や内環境の変動により、よりよく適応していく過程が、情動さらには”こころ”の生物学的起源ではないかと想定されている。しかし、その機構は大部分未解明である。
  • 脳科学の諸技術の進歩はめざましく、各種神経難病の発症機構や治療法について多くの道筋や開かれてきた。一方未解明の問題も山積しており、とくに情動がどのように成立するのか、そしてその異常はなぜ生じるのか、という人間存在の本質にかかわる問題に対し、既存の医学の回答は十分ではなかった。
  • 感覚から深い情動に至る研究の今後の展望
    • 感覚の受容からはじまる不快情動生成の神経回路をそれぞれ同定し、感覚が情動を生み出していく機構を特定するべきである
    • 情動異常の様式と脳内神経機構の受容との関連を一つ一つ対応付けて明らかにする
    • ”こころ”の意義に関する、科学的根拠に基づく新しい”知”の体系を創成する必要があろう。