脊髄メカニズム

谷口亘、吉田宗人、中塚映政 脊髄メカニズム Bone Joint Nerve 2012;2(2):217-222

  • C線維 後角 第I,II層のニューロンに入力 視床を経て大脳皮質の感覚野 痛みの弁別
  • Aδ線維   第I,II層だけでなくV層にも入力 視床を経て大脳皮質の感覚野、視床下部や脳幹にも入力、島や扁桃体など大脳辺縁系にも入力 痛みの弁別に関与するだけでなく、情動、自律機能、記憶などさまざまな神経機能に影響を及ぼす
  • 脊髄における痛みの伝達

など神経ペプチドを介する緩徐なシナプス伝達に由来すると考えられている

  • 脊髄後角におけるシナプス伝達の修飾
    • 精神が興奮している状態では脳幹から脊髄後角に投射している下行性疼痛抑制系が賦活し、大縫線核からのセロトニン、青斑核からのノルアドレナリン視床下部A11からのドパミンがそれぞれ、脊髄後角の細胞膜に存在する5-HT 1A受容体、α2受容体、D2ライク受容体に作用して細胞膜を過分極させ、末梢から伝わる痛みを脊髄レベルで減弱させる
  • 慢性疼痛の発生機序 神経の可塑的変化 末梢性、中枢性
    • シナプス可塑性 wind-up現象、長期増強(long-term potentiation;LTP) いずれもNMDA受容体を介する、NMDA受容体のリン酸化が関与
    • 神経回路の可塑的変化 慢性炎症や末梢神経損傷などの病態時には、触覚を伝えるAβ線維が痛みに関連する脊髄II層細胞に軸索発芽をおこすために、触刺激でも痛みを感じるアロデニアがおこると考えられている
  • 慢性疼痛と神経栄養因子
    • 神経栄養因子は標的細胞やグリア細胞から神経細胞に供給され、痛覚情報伝達に多彩な影響を及ぼす。炎症部位ではNGFの産生が増加して痛覚過敏を引き起こす。侵害受容線維終末のTrkA受容体と結合したNGFは、線維内に取り込まれて、逆行性軸索流によって後根神経節内の細胞体に運ばれる。
  • 慢性疼痛とイオンチャンネルの活性化
    • 痛み情報を増幅させるイオンチャンネルとしてはATP感受性のP2X受容体、TRP受容体ファミリー、電位依存性Na+チャンネル、酸感受性イオンチャンネルなどが知られている
  • 慢性疼痛とグリア細胞
    • 最近の研究から、グリア細胞は神経活動の調節にも積極的に関わっていることが示され、慢性疼痛のなかでも神経障害性疼痛の発現に大きく関与しているが報告されるようになった
  • おわりに
    • 痛みは生体の警告信号としての重要な役割を担うが、一方、慢性疼痛は病的なものであり、警告信号の役割を逸脱し、有害なものにかわってしまっている。慢性疼痛はその発症メカニズムが複雑であるがために難治性であり、有効な治療法の選択肢は少なく、臨床では苦労することが

多い。しかし、基礎研究面では慢性疼痛におけるメカニズムがようやく明らかになりつつあり、今後臨床面に応用され、治療法が劇的に改良される可能性がある。