基礎研究から見た痛みと痛みの評価

成田年 基礎研究から見た痛みと痛みの評価 治療 2003;85(7):2053-2057

  • 慢性疼痛 炎症性疼痛と神経障害性疼痛
  • 炎症性疼痛 生体組織が示す局所性の防御反応
  • 神経因性疼痛患者は同一の原因疾患であっても、神経の損傷、障害の程度などにより異なった症状を呈する場合があり、また他の神経因性疼痛患者と同様の症状を呈していても、同一の治療で疼痛が改善されない場合があることなどから、神経因性疼痛の発症並びに維持機構は、非常に複雑であることが想定されている。
  • 慢性疼痛発現のメカニズム
    • 脊髄後角細胞のwind up現象 ,central sensitization, 海馬のlong term potentiation ; LTP
    • 脊髄後角の反応性の亢進に対して重要な役割を担う蛋白の一つとしてのprotein kinase C (PKC) 12種類あり
    • PKCγ LTPを調節する主要因子の一つ。脊髄後角のII層内層のシナプス後部に存在。神経損傷によって引き起こされる慢性的な痛みに特異的に関与している可能性を示唆
    • BDNF 脳由来神経栄養因子 小型の脊髄後根神経節DRG細胞において合成された後、一次性求心神経の末梢端ならびに中枢端の2方向性にそれぞれ順行性に輸送され、とくに中枢端においては内因性神経伝達物質あるいは神経調節物質として脊髄後角神経の興奮性を制御すると考えられている
    • 神経損傷によるBDNF/TrkBを介した疼痛伝達経路の活性化が、脊髄後角の反応性の過敏化を惹起し、痛覚過敏反応としてアロディニアを誘発する主要経路の一つとして、非常に重要な役割を果たしている可能性が示唆される
    • 慢性炎症性疼痛には脊髄のPKCはほとんど関与していない可能性が考えられる
    • 慢性炎症性疼痛には神経因性疼痛とは異なり、PKC非依存的でPKAに関連した疼痛発現機序が存在している可能性が示唆された。
  • 慢性疼痛の発現や形成機構には上述した要因だけではなく、いくつもの因子が絡み合いながら複雑なネットワークを構築しているものと推察される。