痛覚伝導路の可塑性と遺伝子

福岡哲男、野口光一 痛覚伝導路の可塑性と遺伝子 医学のあゆみ 2000;195(9):623-629

  • われわれが日常生活で経験する通常の痛み感覚は、外部からの痛み刺激が末梢の受容器で電気的興奮に変換されて一次知覚神経細胞を伝わって脊髄後角に至り,グルタミン酸をおもな神経伝達物質とする化学的シナプスを介して脊髄神経細胞に興奮がリレーされ、ふたたび電気的興奮として脊髄を上行して脳に至る。ほとんどの場合、この興奮の伝達は一時的なものでその痕跡を残さない。
  • ところが、末梢からの入力が長時間続いたり、その強度が著しい場合、さらにその経路自体に損傷がある場合などには痛覚伝導路の可塑的変化を生じさせ、この影響が長時間つづくことになる。たとえば、末梢組織の炎症はわれわれがよく経験する病的痛みの代表であるが、この場合には炎症部位でさまざまなケミカルメディエーターが作用して痛みをおこすと共に、一次知覚神経細胞においてさまざまな遺伝子の発現が変化し、痛みを遷延させたり増強させることがわかってきた。
  • 著者らは、神経因性疼痛モデルにおいて末梢組織から脊髄へ痛みを伝達するのはあきらかに直接の障害を免れた一次知覚線維であると考え、そのような神経細胞における遺伝子変化とそのメカニズムを調べてきた。
  • 以上のことから、L5脊髄神経結紮により、そのより末梢側のL5一次知覚線維がWaller変性を起こし、そのSchwann細胞で産生されたNGFが坐骨神経内を併走するL4一次知覚線維にとりこまれ、L4DRGに逆行性に輸送されてPPTやCGRPmRNAを増加させるメカニズムが考えられた。
  • 以上のように、神経因性疼痛のメカニズムにおいて直接障害を受けた一次知覚神経細胞における変化以外に、障害を受けずに残った一次知覚神経細胞の機能亢進が多くのデータから証明され、病態発現に重要である可能性が生じてきた。

コメント モデルが結紮によってつくられているので、一般的な臨床症例にあてはめるのは難しいか。

野口光一 慢性痛と脊髄における遺伝子発現 癌性疼痛の分子メカニズムについて 日本ペインクリニック学会誌 1999;6(4):354-360

  • がん性疼痛の分子メカニズムについて考えてみたい
  • 侵害受容性疼痛 nociceptive pain
    • 機械的刺激
    • 化学的刺激 Bradykin/Proton/Serotonin/Histamine
  • 神経因性疼痛 中枢性/末梢性
    • 神経腫の形成 活発な自発性興奮の発生源
    • 侵害受容器(nociceptor)の感受性増大
    • 知覚線維間の相互作用
      • Ephaptic cross talk
      • Crossed after discharge
    • 知覚線維と交感神経の相互作用
    • 脊髄ニューロンの興奮性増大 (sensitization)
      • 電気生理学的にもC線維を繰り返し刺激すると脊髄ニューロンの反応がだんだん大きくなるwind upと呼ばれる現象がある
      • 細胞内カルシウムイオン濃度上昇のメカニズム prostaglandins/NOS
    • 脊髄における脱抑制
    • 脊髄後角での神経回路の再構成