身体症状症と中枢性過敏症候群(あるいは線維筋痛症)

戸田克広 身体症状症と中枢性過敏症候群(あるいは線維筋痛症) 精神科治療学 2017;32(8):1087-1090

  • 身体症状症では医学的に説明不能の身体症状(身体症状症)であるか否かを問われなくなり、身体症状、またはそれに伴う健康への懸念に関連した過度な思考、感情または行動があればよいのである
  • つまり、結核線維筋痛症(FM)が存在していても身体症状症の診断基準を満たせば、それらの疾患と身体症状症が合併することになる
  • 身体症状症の診断基準に記載されている、「過度な思考、感情又は行動」「不釣合いかつ持続する思考」「強い不安」「過度の時間と労力」には具体的な基準がなく、医師の主観でそれらがきまってしまう
  • 最大の問題点は医学的に説明不能の症状を診療する各診療科が独自に診断基準を決めていることである
  • (癌については)癌を診療する各科が一同に会して、癌の診断方法を決めたからである
  • 精神科は医学的に説明不能の症状を身体症状症と診断し、日本以外の先進国の痛みやリウマチの領域は中枢性過敏症候群(あるいは機能性身体症候群)、あるいはその中で医学的に説明不能の痛みを引き起こす疾患の中心であるFM、あるいはその不全型である慢性広範痛症や慢性局所痛症と診断している
  • 医学的に説明不能の症状は身体疾患であるはずがないという身体科の根拠のない理論により、身体科ではしばしば診療拒否が起こる
  • 医学理論が衝突した場合の解決方法は、治療成績が優れた医学理論を採用することである
  • 筆者が調べた範囲では身体症状症の治療成績は報告されていない
  • 科学的根拠のある有効な治療方法は圧倒的にFMの方が多い
  • 精神科領域では「pregabalinはFMにおいて有効らしい」という人づてに聞いたことに基づき医学的に説明不能の痛みに対してpregabalinが使用されることがある
  • 医学的に説明の付かない症状(痛み)を身体症状症(身体表現性障害)と診断してもFMあるいは不完全型と診断しても心理療法(精神的治療)が有効であることに差はない。だたし、臨床の場面では、抑うつに対する認知行動療法は診療報酬を請求できるが、痛みに対する認知行動療法は診療報酬を請求できない
  • 以上を総合すると、精神症状と身体症状の区別、あるいは精神疾患と身体疾患の区別には意味がないと考えることが妥当である
  • 医学的に説明不能の症状や痛みを診療する全診療科が一同に会して、医学的に説明不能な症状や痛みに関する概念が統一されることを筆者は願っている