笠原諭 テストバッテリーを用いた心理アセスメント 自己主張困難を抱えた思春期女性の慢性痛の一症例 ペインクリニック 2015;34(11):1555-1563
- 「心因」とは環境的な要因であり、「普通の意味での”外”でもできごとでも、”こころ”の中の意味性をもって生じるもの」と説明される
- 神経症は、心因と性格要因の相互作用によって生じるものと言い換えることができる
- 人と親しくなりたいが、相手からの評価が気になり、積極的に交友関係を持てていないことが葛藤の一つであることが推定される
- 本症例の治療においては、母親の教育方針や関わり方への介入が重要と考えられたため、当科と並行して当院精神神経科の児童を専門とするリエゾン心理士と連携をとって、カウンセリングとペアレント・トレーニングへの導入を行っている
- 最近の経過としては、母親が代弁などの過保護な関わりを減らし始め、本人のhead turning signが消失し、依存性には改善が見られはじめている
- 心理アセスメントを行う際には、判定者の認知プロセスによる様々なバイアスがかかりやすいことを認識していることが重要とされている
- 臨床家は、診断を面接の初めの30-60秒後に下し、その後、その診断を覆すような事実が示されても診断を変えようとしない傾向があることもわかっている
- コメント 細井昌子
- 幼児・学童・思春期の症例や知的問題を抱える症例では、社会的なストレスに伴う葛藤状況を言語化できず、周囲(特に家族)が受け入れやすい身体症状として表現される場合が確かにあります。痛みを訴える行動である疼痛行動が報酬を得て、家族や医療者の前で「痛い、痛い」と言語的に表明するという疼痛行動が強化されてきた症例では、その報酬が何であるかに興味を払うことで、痛みの訴えで本人が表明している苦境が何かを理解するヒントがつかめます。
- 中学生以上であれば、家族が最初から陪席を希望してもまずは本人のみとお話して、自身での表現能力がどの程度であるかを確認するようにしています。一緒に来た家族がいない状況で、家族に対する率直な感情をどの程度話せるかも重要な心理アセスメントの情報になります。
- 心理的な介入を提案する際に、自分が批判されているという罪悪感を覚えてしまうと、かえって攻撃的になることがあり、この症例でも母親に対して支持的カウンセリングを行いながら、心理教育的アプローチを行って本人との交流の仕方について具体的に理解していただくと、医療への依存を減らしていくことにつながるでしょう
- 私自身は「疾病利得」という言葉はあえて使用しないで表現するようにしています。「好きでやっているのではない」という苦境にある思いを汲み取り、疼痛行動でしか方法がなかった環境の報酬を、適応行動で得られるように環境や個人のアプローチを行っていくことが、提示症例のような思春期で適切な自己主張が困難である症例の治療に役立つでしょう