「患者のことは患者と家族に学ぶ」教訓と治療的対話の有用性:遷延化

井関明夫 「患者のことは患者と家族に学ぶ」教訓と治療的対話の有用性:遷延化した慢性痛4症例の治療経験から ペインクリニック 2014;35(12):1665-1671

  • 慢性痛は完全治癒しないものなので、ずっと痛みを感じ続けている患者にとっては、なんとかこの痛みを他人に理解してもらいたいという欲求がいつもあります。そのため、もしも自分の症状を過小評価されるような言動があれば、たとえ正しい評価であっても反射的に否定しがちです。
  • こういった現象が生じるもっとも大きな要因として、痛みの存在を伝達する手段が未だ不完全であることに由来するような気がします
  • コメント細井昌子
  • 「患者目線」からのインプットを大切にする双方向性を重視するために「治療的対話」という言葉を提案したいと思います。
  • その際に「ソクラテス式問答法」という様式が役立ちます。ソクラテスは、彼とプラトンの対話などが哲学の対話として有名ですが、「ソクラテス式問答法」は、一問一答方式で、患者からみた世界を描写していただき、その世界を治療者が想像力を豊かに実感する中で、患者自身に気づきを与えていく対話法とも言えます。この対話法は、まさしく「患者のことを治療者が患者に聞き、語られた内容を患者自身が聴き、患者と治療者がともに対象となっている状況を理解していく」という対話法です。病歴の中で、身体面の変化と心理社会的環境を情報として明らかにしていく過程で、治療的対話の要素を入れ込むと、患者自身が気づきを得やすくなり、「不明瞭なものがはっきりしていく」という心理的効果があるものです
  • 疼痛行動が社会的報酬で強化されている
    • 現実的利得、擁護反応、現実回避、葛藤回避、家族システムの維持
  • 不安の強い患者の訴えに反応した家族が攻撃的に治療者に反応する場面がありますが、その場合にも、時に患者と家族に別の問題があり、痛みを介して心理的な連合が生まれることが、疼痛行動の社会的報酬になっている場合もあるようです。
  • 攻撃的に治療者が責められる際に、反感を覚えて発した治療者のチョットした言葉で、さらに治療者が攻撃されるという悪循環がおこる場合があります。こういった場合、患者が「心理的な葛藤を言葉で語れない」ことが多く、痛み症状を訴えた時のみ家族とのつながりを実感できるという病態が明らかになったります
  • 多くは患者の自己主張能力を治療によって伸ばしていくことが必要な場合があります。難治症例では、自己否定感が強く、自分の気持ちも相手の気持ちも大切にするアサーションの概念を理解してもらい、そのスキルの獲得が治療として機能することもあるわけです。
  • 一般人においては、自己主張能力が低く家庭や職場で過剰適応している人々が慢性痛難治症例となっている事実を留意しておくことが大切です。