痛みに対する心理療法2 家族療法

早川洋 痛みに対する心理療法2 家族療法 痛みと臨床 2005;5:205-210

  • 小宮山 慢性疼痛の心理的・精神的機制からの分類
    • 精神性理学的疼痛、うつ病型疼痛、回避学習型疼痛、オペラント型疼痛、思考障害型疼痛
    • オペラント型疼痛は、疼痛行動の出現に伴って患者にとって何らかの快適な結果(周囲からの擁護反応などの報酬)が生じる為に持続する
  • 痛みという症状は、周囲の身近な人にとっては放置することがきわめて困難な症状であるため、患者の側からは家族による介護という形で「報酬」が得られ、その結果患者は「孤立感」から解放されることになる。
  • そこには痛みという非言語的コミュニケーションが成立し、時間の経過とともに慢性的に持続することになる。治療的アプローチとは、痛みという非言語的表現を患者―家族間の言語的表現に変えることであり、そのためには家族とともに治療することが必要になる
  • 家族は患者の慢性的な症状のために苦痛を感じ、混乱し、重荷を背負っているのが現状である
  • 症状をもつ患者を中心として機能不全を起こしている家族は、対等であるべき夫婦関係が一方的な上下関係になって硬直している場合や、子供が親の愚痴を聞く役になることによって親の精神的ケアをする立場になるなど、本来の役割の逆転がみられることが多い
  • 治療者は専門用語でなく患者の使う「ローカルな言葉」で語り合い、相手を急いで理解しないように、いつも理解の途上にとどまり続けることにより、「いまだかたられていない物語」を引き出していく、そのやり取りのなかで、患者の症状を含む過去の物語が書き換えられながら新しい物語が生まれていく。ナラティブセラピーでは、目標を定めずにつづいていくそのような相互作用を治療そのものと考える
  • 症例1 37F
    • 元来強迫性傾向、完ぺき主義
    • 両親には治療上のことは現状以上には期待できないこと、夫は精一杯家事や子育てを協力してくれているが、自分のほうが要求過剰になっていたために、逆に夫との距離が開いてしまったことに気づくようになり、相手に対する期待が過剰であったことを体験的に知ることによって患者の不安感が減少したのではないかと考えられた
  • 症例2 75M
    • 「社会的役割を失い、これまで家族とも交流が少なかった患者にとって、疼痛は無意識に家族との唯一の交流手段になった。症状がない場合、患者は家族とのかかわりを失い精神的により不安定になるのではないか」と説明し、症状の肯定的な側面も強調した
  • これまで高齢になっても家の中心になっていた患者は、発病によって家庭での居場所をなくしたように感じたことがストレスになったのではないかた考えられた。治療の説得や入退院の決定について、長男に主導権をとってもらうことで家庭内でも中心的立場から退き、年齢相応の位置に落ち着いたことが不安の軽減にとともに疼痛の軽減につながったと考えれた。