慢性痛医療における時間管理と治る力を治療者が信じることの重要性に

西江宏行 慢性痛医療における時間管理と治る力を治療者が信じることの重要性について:女性慢性痛3症例の診察経験から ペインクリニック 2014;35(9):1245-1252

  • 「痛かったねえ、つらかったねえ」と言い、「痛みに耐えて子育てや家事などをよくここまでやってきたね」と本人に伝えた
  • 看護婦にも問診を依頼したところ、(心の)エネルギーが貯蓄されずに消費されているとのことなので、なるべく休養を取るように説明があった。それから数ヶ月の間は、無理をしないことを勧めた上で、できなかったことよりできたことに目を向けるように話した。
  • 「施すだけの医療」では限界を感じていた時に、「患者が自分で自分を治していく、われわれ医療者はそのサポートをする」という考え方を知った
  • 運動療法エビデンスがあるから、運動しましょう、自分で良くしましょう、という説明ははたして患者の心に響くであろうか
  • 良くなるという保証が、安心感を生んだかもしれないが、それよりも医師に信頼されていると感じたことが自信につながったのではないかと考えている
  • まず、医療者が患者を信頼することが信頼関係の構築に一番役立つように思う
  • 医療者も患者のいうことを信頼すれば、自然と「よく頑張ってきたね」「痛かったね」などという言葉が出てきて、患者の置かれている立場が十分に理解できるようになる。つまり共感できるようになる。そして、「大丈夫よくなります。あなたは良くなる力をもっています」といえる。
  • 慢性痛で外来を受診している患者の多くは自分に自信をもてていない、自分の理想の生活と現実とのギャップがそうさせているのであろうが、次第に周囲の人から信頼されなくなって疎外感を感じてくることもあると考えている
  • コメント 細井昌子
  • 慢性痛で怒りを抱えやすい患者さんを対象として交流していく治療者に有用となるのは、患者さんや家族の「怒り」を受ける時に、「自分や相手の反応を客観視」する姿勢です。
  • 「一見理不尽であるように本人には見えても、実際にはある程度仕方ない場面」で示す母親の攻撃性は、おそらく患者さんも幼少期の養育場面で受けてきたことでしょう。治療社自信が受けるプレッシャーを、患者さんが幼少期から受けてきた心の苦しみと受け止めると、患者さんに対して共感しやすくなるかもしれません
  • 受診票をなげつけるお母様を観察した場合には、ご本人のみの診察の際に、「お母様は起こると先ほどのようになられますか?」などとお話すると、「いえ、さっきのはまだいいほうです」と続き、母親の攻撃性に対する話に始まり、体の痛みだけではない本人の環境の苦しみを吐露されたこともあります。
  • ぎりぎりになってやっと親に相談されている症例では、幼少期に自然に甘えられなかった環境がある場合も多く、親にかなり遠慮してしまう依存欲求の抑圧があることがあります。そういった背景について心理アセスメントを行うと、痛みが悪い時には母親に手伝いを頼めるけど、痛み症状が改善してくると過剰に遠慮され、母親との関わりを頼めない場合があり、症状改善の阻害因子になっていることがあります。したがって、痛みが母親との交流促進の役割を行っている状況から、「自然に母親に物事を頼めない」特性を治療対象として言語化して、痛み以外の肯定的な交流を模索したりします
  • 慢性痛におけるドクターショッピングは、心理学的には「attachment searching(愛着探索)」であるという考え方もある
  • 日常生活や社会生活の中で機能的な心身の苦痛が実際に起こり、その苦痛・苦悩を訴えて、安全基地を探しているという見方もあります。
  • 本人の実存的な苦痛・苦悩に近づけるための「治療的対話」そのものが、「交流の質」を変えることになり、「今までの治療者との間に感じられなかった安心感」を得られることになるでしょう