松平浩 心理社会的要因の関与が強い慢性腰痛の病態とアプローチ法 脊椎脊髄 2012;25(4):252-258

  • 痛み刺激が加わった時にも、腹側被蓋野に活動電位の群発射がおこり、十分量のdopaminが側坐核などに向けて放射される。側坐核ニューロンが興奮すると脳内μ-opioid受容体も活性化し、下行性痛覚抑制系を介して脊髄後角レベルで侵害情報が抑制される。誰の脳にも本来備わっているこの鎮痛機構は、心的ストレスの持続により機能低下を起こすことがわかってきた。
  • 代表的な慢性化・機能障害の機能因子 心理社会的yellow flag
    • 心的ストレス
      • 恐怖回避思考、破局的思考(←強い、あるいは支障度の高い痛みの体験、医療者の適切な態度・説明)
    • 低い仕事の満足度
    • 低いソーシャルサポート
    • 反応及び結果
      • 身体化徴候(頭痛、肩こり、めまい、耳鳴り、息苦しさ、動悸、胃腸の不調など)
      • 広範な痛みの訴え
      • 全般的健康感の低下
      • 欠勤の長期化
  • 簡便なスクリーニングツール
    • STarT(subgrouping for targeted treatment)
  • 治療法
    • 患者の声に耳を傾けつつ共感する態度を示すこと。小さな達成感を積み重ねさせること。最終的には人生に希望を与えることが脳の機能障害を改善するためのキーポイントである。
  • 治療をすすめる上で最も大事な”関係性”を築くテクニックとして、まずは「今までよく堪えて頑張って来ましたね」と患者に対する共感を明確に示す。とくに、補償問題のこじれ、術後の成績不良、医療不信などから”怒り”の感情が明白な患者では、手をにぎるくらいの勢いで共感およびいたわりの態度を示す。
  • ストレス社会に生きている現代人ではストレスが原因で腰痛がおこることもまれではないと説明する
  • ストレス要因を自由記載させ把握する。できるだけ苦悩や不平・不満、怒りといった感情を吐き出す形で記載するように指示する
  • 痛みの出現を恐れて局所の安静を重視し活動を制限することや、過去の画像診断への悲劇的解釈はかえって回復を損なうという医学的な事実があると説明する
  • 歩行運動は脳機能を改善させるエビデンスがあると説明する
  • 受動的物理療法を主軸にすると、患者の医療者依存と痛み行動を増強させるので注意を要する
  • おわりに
    • 治療成功の鍵は、特に初期の段階で患者の話をアクティブリスニングとして治療者側が耳を傾けられるか、その結果もたらされる信頼感のある関係性を構築できるかにかかっているからである。治療者には、痛みを訴える患者(痛み感覚)に治療を施すという意識よりも、痛み行動が強化された人間に向き合うというスタンスが必要である