松平浩 卒後研修講座 知っておきたい腰痛診療上の知識 整形外科 2011;62(10):1119-1127

  • 椎間板変性、ヘルニア、狭窄、骨棘、すべりといった以上と説明しがちな画像所見は、腰痛症状の有無にかかわらず一般集団にみられ、すくなくともこれらが重要視すべき腰痛との関連要因とはいえず、特異的腰痛が否定されれば、画像検査を慣例的に行なっても、残念ながら患者の臨床転帰を好転させることに役だっているとはいえない。聖人でも見つかる分離症の多くも同様である。
  • 加えて腰痛があっても治るまで安静を保つのではなく、痛みの範囲内で普段通り活動を維持するほうが望ましいという考えが主流となりつつある。”ぎっくり腰”のような急性の非特異的腰痛であっても、数日以上の安静臥床が望ましいとする根拠はほとんどないといってよい。画像所見と安静の強調は、恐怖回避思考・行動を助長し、回復を阻害することがあるので注意を要する
  • 「私の腰は、レントゲンで正常でなく傷んでいるといわれた。気になってしょうがない」「自分の仕事は重労働過ぎて、このまま続けているとわたしの腰はとんでもないことになってしまうと、ついつい悪い方向に考えてしまう」「いまの腰痛が完治するまでは、とにかく無理をセず通常の仕事にはもどらないほうがよい」などといった腰痛に対する強い恐怖感と、それに伴う過剰な活動の制限(恐怖回避思考・行動)が、機能障害および就労状況の予後に強く影響する。エビデンスに基づいた情報に基づく正しい教育をし、楽観的に腰痛と向き合わせることが肝要である
  • 1990年代にEBMが導入され西欧でガイドラインが作成され出してから、腰痛に対するアプローチ法はパラダイムシフトしつつある。象徴的なものとしては、従来教科書的にもステレオタイプであった安静、受動的治療、画像所見重視の医療スタイルへ疑問符がついたことがあげられる。加えてすくなくとも非特異的腰痛に関しては、本稿でも触れた心的ストレスや恐怖回避思考を代表とする心理社会的要因の方が画像所見よりも予後規定因子として重要であり、生物心理社会的疼痛症候群としてとらえてアプローチせざろうえないことも認識いただけたら幸いである