森山周、信迫悟志、大住倫弘 神経科学に基づいた慢性痛に対するリハビリテーション戦略 Pain Rehabilitation 2015;5(1):3-10
- 痛みの側面
- 急性痛、慢性痛
- 感覚的側面、情動的側面、認知的側面
- 慢性痛の神経プロセス
- 損傷ー疼痛ー運動抑制ー疼痛防御行動ー学習性不使用ー脳内体部位再現の狭小化ー患肢の失認や運動無視(neglect-like syndrome)ー患肢の嫌悪感ー社会への嫌悪感
- 下行性疼痛抑制機能 痛みの予期、鎮痛の期待、注意といった認知的側面に加えて、不安、抑うつ状態に代表されるようなムードなど情動的側面も関与
- 痛みの情動的側面における神経科学的解釈
- 個人の期待や報酬が影響するドーパミンが増加すればするほどオピオイドの活性を高め、活性化されたオピオイドシステムは、下行性痛覚抑制系を介して侵害信号を脊髄後角で抑制し、鎮痛をもたらすことが示唆されている
- なかでも、眼窩前頭皮質、側坐核、中脳腹側被蓋野などの報酬系に関わる領域が高く活動するものは、オピオイド鎮痛効果が生じやすく、オピオイドによる鎮痛は、報酬系に関わる脳領域が正常に機能していることが必要条件であると言われている
- 腰痛非改善群は、直接的にドーパミン活性の影響を受ける側坐核の灰白質容量の現象がみられる
- 内側前頭前野の過活動が痛みの程度に直接影響
- 心理的モデルもこうした前頭前野の機能不全によって起こると想定されている。
- 背外側前頭前野はワーキングメモリ機能に関わり、意図・志向性(目的志向的、かつ自発的に制御しようとする意思)により作動する
- 痛みを自分でコントロールしようとする意図が背側前頭前野を活性化させ、鎮痛効果に影響を与えるといったプロセスも報告されている
- 痛みの情動的側面に対するリハビリテーション戦略
- 痛みの認知的側面における神経科学的解釈
- McCabe 視覚と運動感覚の不一致がおこると約半数の被験者で不快情動が起こり、そして15%の被験者で痛みが出現することを報告
- CRPS 異常知覚 視覚と体性感覚の不一致課題を行うと、健常者より高い比率で異常感覚が出現
- 痛みの主観的疼痛強度と強く関係する前帯状回は、情報の不一致や矛盾のモニタリングの行う役割をもっている
- 感覚情報の不一致はNeglect-like syndrome による身体失認様症状と同じメカニズムが起因していると考えられ、この問題を解決すべき臨床介入をすることが必要である
- したげって、高次脳機能のメカニズムの理解がまずは重要であり、脳卒中に行うような感覚情報を統合させるニューロリハビリテーション戦略が必要となる
- 認知的側面の評価 McCabe The Bath CRPS Body Perception Disturbance Scale
- 2点識別閾値が大きい場合、主観的な身体の大きさを実際の身体よりも大きく感じるといった大きさ知覚に以上をきたひていることから、自己身体描画も同時に行うことが望ましい
- 痛みに対するニューロリハビリテーションは、むしろこれにターゲットを置き、臨床介入していくことが重要である。そのためには、まずは慢性痛の問題の所在が情動的側面か認知的側面かを明確にする必要がある
- 痛みの認知的側面に対するリハビリテーション
- Ramachandran ミラーセラピー
- Sumitani ミラーセラピーの介入効果が見られた症例は、固有受容感覚に関連した性質の痛み(例 ねじれのような)であり、皮膚受容感覚に関連した性質の痛み(ナイフで刺されたような)には効果がなかったことを報告している
- 痛みが表在感覚か固有感覚由来かを評価し、臨床実践すべきであることがわかる
- 運動イメージ想起による介入
- 視線認知に基づいた運動観察法 慢性痛患者の中でも不動を学習してしまい、学習性麻痺様症状を呈した間違った運動シミュレーションを行っているのに有効である
- 橈骨遠位端骨折患者 手関節総指伸筋権に振動刺激を加え手関節の運動錯覚を生じさせた群は非介入群に比較して、主観t系疼痛強度が有意に減少し、その効果が持続することを明らかにした (ボトムアップ刺激に基づく脳内で運動錯覚を発生させる戦略は慢性化させない手続きになる可能性)
- 人工関節置換術後症例において、自己身体の認識能力が低下した状態(neglect-like syndrome)を示すものがより痛みの慢性化を引き起こすことがわかった
- 社会的痛みの感受性と身体的痛みの感受性は直接的な正の相関をしめし、それに共通した脳内基盤が前帯状回、島皮質である。これまでの論述は慢性痛における情動的側面や認知的側面であったが、神経科学から考えると社会的側面も慢性痛に関与している。こうした社会的痛みに関してはソーシャルサポートによって社会的疎外感を与えないことが重要になる