傾性斜頸を主訴とする慢性疼痛患者への認知行動療法

中島啓子 傾性斜頸を主訴とする慢性疼痛患者への認知行動療法 Monthly book medical rehabilitation 2011;138:37-45

  • Fordyce(1973)は、痛みをめぐって人が起こす随意行動、すなわちオペラント(痛みを訴える、病院へ行く、薬を飲む、仕事・学校・家事を休むなど)を、知覚の痛みと区別し、それを総称として痛み行動「原因の特定できない慢性疼痛の患者で、医療従事者が扱えるのは痛み行動である」と提唱した。
  • 痛み行動は、慢性疼痛では痛み行動に対する周囲の反応によって規定されるようになる(オペラント条件づけ)ととらえ、痛み行動が強化される(報酬を与えられる)ような条件下では痛み行動は強化されるが、強化されない条件下では減少するという行動療法の理論があてはまる
  • Beck(1976)は、人の認知「ものの見方・とらえ方」には自動思考(ある出来事がおこったとき瞬間的に頭に浮かぶこと)が関与し、例えば「痛みがある→身体のどこかがわるいはずだ→この痛みが仕事をできなくさせている→気持ちが落ち込む」など感情がものの見方に密接に関係するため、ものの見方を再検討することによって感情状態を変化させ、現実的、客観的に問題に対処していく認知療法を提唱した。
  • 痛み行動には、患者本人のものの見方・とらえ方という認知と周囲の反応によって規定される行動の両面からのアプローチが必要となる
  • 認知行動療法
    • 認知行動療法は、患者が持つ固有の予測、判断、信念、価値観など様々な認知的要因を想定し、それらが患者の感情や行動にどのような影響を及ぼしているか想定する。感情や行動に直接的に介入するだけでなく、むしろ感情や行動に及ぼしている認知的要因を治療標的として積極的に扱う。患者自らが自分のものの見方・考え方・捉え方に気付き適応的な認知への変容(否定的思考から肯定的思考へなど)していくことにより、感情や行動の修正「認知再構成法」を行うことを目的とする。患者のものの見方・考え方・とらえ方がかわることによって感情や行動が変わることを患者自身が経験することで、自分の感情や行動は自分でコントロールできるという自覚を促すことを積極的に行う心理療法である。最終的に患者自身のセルフコントロールの獲得をめざす
  • ストレスコーピングインベントリー
    • 対処型は、計画型、対決型、社会的支援模索型、責任受容型、自己コントロール型、逃避型、隔離型、肯定評価型
    • 日本の慢性疼痛患者 心気的でこだわりの強いタイプが多い
  • 認知行動的アプローチ
    • ストレス対処
    • 自己主張訓練
    • SST(social skills training;苦手場面の社会的技能訓練)
    • 注意の分散訓練
  • 今後の課題
    • 慢性疼痛の治療には、リハ医療チームの方針および各スタッフの役割が明確な構造化されたプログラムが必要である。慢性疼痛患者には大別すると心気的で抑うつなタイプと疼痛行動中心の転換タイプがあり、それぞれのタイプに合ったプログラムによって、いたみの訴えには過剰に反応せずに身体活動性を増加させるように指導し、「痛いからできない」という否定的思考から「痛くてもできることがある」という肯定的思考への転換をはかる指導ができるスタッフの育成が望まれる