松原貴子 慢性疼痛のリハビリテーション 臨床精神医学 2013;42(6):733-738

  • これまで本邦では、疼痛は何らかの組織異常から生じる感覚障害として単軸的なとらえ方がなされ、原因探しと末梢への対症的アプローチ、つまり「生物医学モデルbiomedical model」に基づく疼痛治療が行われてきた
  • しかし、慢性疼痛に対しては、それだけでは対応しきれないために不適切な対応や放置されるケースも少なくなかった。疼痛マネジメントにおいては、疼痛などの症状だけにとらわれることなく、症状を有する患者の情動や認知、患者を取り巻く社会的情勢までもを“一人の個whole body”として包括的にとらえアプローチしようとする「生物心理社会モデルbiopsychosocial model」へと医療のパラダイムシフトが起きており、疼痛に苦しむ患者に全人的かつ包括的に向き合うことの必要性が提言されている 謝罪謝ります
  • 慢性疼痛のリハでは、疼痛ゼロを目指した疼痛そのものへの対症療法ではなく、情動や認知の変化を念頭に、疼痛があっても、または残ったとしても安静を回避し活動を継続、漸増することのよるQOLの向上を目指す。慢性疼痛のリハとして、集学的リハ、運動療法認知行動療法、ニューロリハなどが世界的に広く導入され、その成果が報告され始めている。
  • 近年、「活動継続」と「安静回避」は、急性、慢性にかかわらず、疼痛マネジメントの第一ステップとして広く推奨されている
  • 「痛い時は安静に」、「動くと悪くなる」といった迷信や誤解を改めるように十分な助言や指導、教育を行った上で、活動の維持や科学的根拠のある運動療法を導入することが重要である
  • 「身体を鍛える」というよりも。「痛みのとらえ方を是正し(認知修正)再学習する」ことを患者に十分理解させたうえで運動を実践しなければ奏功しずらい
  • 疼痛―行動評価では、活動量の増加が必ずしも痛みを増強させるものではないことを理解させることが重要である
  • 慢性疼痛患者は極端な認知・行動パターンを示すものが多い。運動の“やりすぎ”で疼痛が増悪すると、一転して“全く動かない”といったように、運動のペースがつかめず、失敗体験によって疼痛の悪循環に陥りやすい。したがって、慢性疼痛のリハでは、特にペーシングが重要となる
  • 慢性疼痛は、記憶や情動にもとづく疼痛であって身体局所に直接的な原因はないと考えられ、過去の経験や記憶の痕跡に基づき主に前頭前野トップダウン情報処理によって脳内で痛みの知覚を形成している可能性が指摘されている