座談会 慢性疼痛に対する薬物療法の新たな展開

紺野慎一、山口重樹、井関雅子 座談会 慢性疼痛に対する薬物療法の新たな展開
Practice of pain management 2011;2(2):82-91

  • (井関) 現代の医学では、どうしても身体の痛みを100%取り除くことはできないため、痛みの受容と共存を図りながら、身体に安全な範囲で治療を提供するのが、基本的な慢性疼痛の治療のスタイルかと思います。
  • (紺野)  慢性疼痛に悩む患者さんと医師の信頼関係をしっかり築くことが基本だと考えています。痛みをゼロにすることを目標とするのではなく、痛みをもつ患者さんのQOLをどのように上げていくかを考慮し、一人ひとりの患者さんに合わせて、患者さんとともにゴール設定を行うことが重要だと思います。
  • (紺野) 整形外科領域の疾患名は、これまではX線診断がそのまま疾患名になっていました。たとえば、変形性関節症、あるいは変形性脊椎症などが挙げられます。これらはX線の診断名であり、病態とは関係ありません
  • (山口) 16世紀の古い教科書からの引用ですが、痛みの治療のポイントとして、「to cure sometimes」(治療するのは時々),「to care often」(ケアをするのはしばしば),「to comfort always」という言葉があります。患者さんを元気づける、癒す、励ます「comfort」とは、要するに「傾聴」だと思うのですが、それを常に行う必要があるということです。
  • (山口) 私が若い医師によく言うのは、修飾語のある痛み、つまり、じんじん痛い、やけつくように痛い、放散するように痛い、しびれるように痛い、圧迫するように痛いという訴えには、やはり何らかの神経障害性疼痛の因子があると判断して、侵害受容性疼痛の治療だけでなく、同時に神経障害性疼痛の治療を考慮するべきではないかということです。
  • (紺野) 以前はヘルニアや脊柱管狭窄の痛みでNSAIDsが効かなければ、神経根ブロックkを行っていたのですが、満足度調査をおこなったところ、湿布と同程度の満足度しかないことがわかり愕然としました。
  • (紺野) 整形外科医は基本的に手術による診療報酬が大きいので、慢性疼痛の患者さんの診察に十分な時間を割くことができない現状があります。