非特異的腰痛のプライマリケア

理論がわかる!実践できる!非特異的腰痛のプライマリ・ケア (臨床力up!Refresher Course 1)

理論がわかる!実践できる!非特異的腰痛のプライマリ・ケア (臨床力up!Refresher Course 1)

  • p2-26 菊地臣一 腰痛に対するprimary care – 新たな病態概念
  • ”わからないことは数多くある“という認識を持っての診療が必要です。
  • 最近出た新しい概念は、腰痛の増悪や遷延化には、従来われわれが認識していた以上に早期から、心理・社会的因子が深く関与しているということです。すなわち、従来の「脊椎の障害」というとらえかたから、「生物・心理・社会的疼痛症候群」さらには「形態学的異常」から「器質・機能障害」というとらえかたです。
  • 重篤な腰痛の予測因子は心理・社会的因子である。心理・社会的因子が就労障害や欠勤におおきな影響を与えるという報告が相次いでいます。
  • 楽観主義は免疫能の維持に非常にプラスという事実です。したがってわれわれの説明は希望を失わない、前向きな説明の仕方が必要であるということになります。
  • fMRI study 大きな損傷=大きな疼痛反応ではなくて、個人者が非常に大きい。脳の反応の仕方が個人によって違う。あるいは、脳の中では物理的な痛みと疎外された時に感じる心の痛みが同じ部位で反応しているという報告があります。痛いと思うだけでも反応している。また、痛みへの期待、あるいは予測で痛みの程度が変わるという報告もあります。
  • 腰痛の診断名に対する批判 外傷節への疑問
  • 画像から見た腰痛と椎間板
    • 無症状例に形態学的異常が多くみられる
  • Raspeら 重度の活動性の腰痛は、他のさまざまな部位の疼痛、身体的愁訴、不調、心理的苦痛と関連があると報告しています。慢性腰痛はillnessという言葉を使っています。不健康という全体像の一部にしかすぎないという指摘がなされています。
  • 以上をまとめると、すくなくともprimary careレベルでは、腰痛病態の新たな認識というのは、急性腰痛がたまたま慢性化したのが慢性腰痛ではないということはいえそうです。それから、やはり生物・心理・社会的疼痛症候群としての心理・社会的因子に、もう一度われわれは注目する必要があります。
  • 診療の目的
    • なぜ医者は診察するのか 特定の病態の除外、患者の不安を軽減
    • なぜ患者は受診するのか 診断、治療、孤独の癒し
  • 慢性腰痛は非常に難しい問題ですので、患者の抱えている2つの問題、−持続する痛みへの苦悩、周囲の無理解に対する絶望、怒りーに適切に対応することが必要です。
  • われわれができるのは、患者の疾患に対する戦う意欲、あるいは適応力の向上に力を貸すことです。患者の最も勇気を与えるのは、患者に対する共感です。
  • MRIは、脊椎の異常診断能力は明らかに向上しています。それと同時に、無症状例にも高頻度な形態異常が認められます。そして造影MRI、造影診断が診断価値を向上させている証拠は現時点ではありません。
  • 蹄の音を聞いて研修医はシマウマを、専門医は馬を思い描く、これはアメリカの諺です。Common diseaseから考えていくのが正当なアプローチです。
  • 治療の組み立ては、「どんな治療をするか」ではなく、「誰を治療するか」ということです。心理・社会的因子の評価、対策も必要です。そして、患者の参加させる、攻めの医療の導入が必要です。
  • 急性腰痛に対する治療の勧告で一致している点は、すぐには画像検査をしなくてよい、治療としての安静を勧めないというところでしょう。
  • コルセットは海外では残念ながら有効だという報告は一つもありません。
  • 医療従事者が患者に腰痛に前向きに対応するように、患者を励まして、そして共感をしめすことで、患者に病気と闘う勇気や元気を与えることができると思います。