脊椎のリハビリテーション 上巻

脊椎のリハビリテーション [上]

脊椎のリハビリテーション [上]

書店に注文したところ、出版社廃業のため入手不可との連絡があり、amazon market placeから購入
多くの文献が引用されており、良書のようだ

  • 第一章 アクティブケア 脊椎障害のマネジメントにおけるその位置づけ
  • 病理解剖学を重視する診断テストは、痛みの原因を発見するために行われることが多い。残念ながらこう入ったテストは、関節の変性疾患や椎間板ヘルニアなど、偶然見つかった構造的な問題を誤って原因としてしまう疑陽性率が高く、このため自分は腰が「悪い」とか「それとつきあっていくことを覚える」必要があるといった患者の自己イメージを強化してしまう
  • 脊椎障害に関する国際ガイドラインいづれも、ヘルスケア専門家に、まず診断トリアージを実行して、まれにしかない重大な病気の「レッドフラッグ」がないことを確認し、その腰背部痛が悪性でないこと、徐々に活動を再開することの安全性と価値を説明して、患者を安心させるよう求めている
  • 臨床現場の問題 患者のなかで構造的病変が偶然に存在する(疑陽性)者が非常に多く、高度な画像検査を軽率に実施することは不安を助長し、痛みの原因の追究に当たって好ましくない介入の連鎖を増長させるという、望ましくない副作用がある
  • 痛みの発生源の正確な病理解剖学的診断は依然として成し難いが、新たなエビデンスは、心理社会的要因と慢性腰痛との間に強い関連性があることを示している。これら心理社会的な疾病の特性(恐怖回避行動、不安)は「イエローフラッグ」と呼ばれ、その関連する重要性を重篤な病気の可能性がある「レッドフラッグ」から区別している。
  • 医師の役割は、恐怖やストレスが筋の緊張を高め、そしてそれが今度は、痛みを悪化させることがあると患者に伝えることである。この関係を理解しておけば、痛みの大部分はコントロール可能な要因によって引き起こされていると、患者を安心させることができる。
  • 腰痛は主観的な症状で、残念ながら椎間板の膨隆、椎間関節の変性、椎体終板の変化、軽度の脊椎すべり症など、大抵の病理解剖的(MRI,X線)検査と相関があまりない。
  • 治療の第一目標の一つは、その痛みが悪性でないことと、通常の活動を再開することの安全性と価値を説明して、患者を安心させることである
  • 米国ヘルスケア政策、研究局(AHCPR)の腰痛ガイドラインには「腰背部痛の主たる目標は、痛みの治療から、痛みに関連した活動耐性低下の治療へと移った」と書かれている
  • 苦痛を害と同一視する患者は、障害につながる思考形式をとっている。これは恐怖回避運動の一部であり、ディコンディショニングを助長する。怖がっている患者を見分け、彼らが「病人の役割」を受け入れるのを助長しないようにすることが重要である
  • 恐怖回避運動をとる患者は、活動回避、安静、対症療法的治療などを通してディコンディショニングの状態になりやすい可能性がある
  • あらゆる従来の治療法のうち、床上安静ほど悪い結果をもたらすものはない。
  • 典型的な腰痛のシナリオは、しつこい痛みをもつ患者が、画像検査をしたからには痛みの「原因」がわかると期待するというものである。予想したとおり、すぐに「痛みの原因」だといえるような構造的病変には事欠かかないだろう。そして患者は、椎間板ヘルニアや変形性関節症のレッテルを貼られ、投薬、マニュピュレーションあるいは注射の助けを借りて痛みと付き合っていくか、外科手術を受け問題を正すという選択肢があることを告げられる。不運にも、対症療法または外科的処置の後も患者が回復しなければ、欲求不安という形で患者の苦痛は増し、今度は心因性の痛みをもつというレッテルまで貼られるのである。
  • (慢性腰痛) 成功の秘訣は「腰痛にエクササイズは禁物であるという患者の誤解を解くこと」である
  • 結論
    • 患者中心の再活動化アプローチは、偶然一致して見つかることが多い構造的病態のさまざまな徴候や、患者の主観的な症状でなく、患者の機能不全と苦痛に注目するものである。従来の生物学的モデルから生物心理社会的モデルへのパラダイムシフトが、脊椎の領域において確固たるものになった。生物心理社会的モデルが我々に教えてくれるものは、従来の「痛みの導きに従う」という態度が、実際には恐怖回避行動のような疾病対処行動を強化する可能性があるということである。より現代的な所見報告は、病気(腫瘍、感染症、骨折)でないこと、活動を維持していることが実は回復を早めることを、患者に保証するものである。痛みは必ずしも差し迫った障害や損傷を警告しているわけではないと知ることが、活動性を維持し、障害を回避し、急性から慢性の痛みへの移行を予防する力を患者に与えるのである。