中井吉英、竹林直紀、町田英世 心理面からの痛みの治療 メンタルケア 1997;2:58-64

  • 慢性疼痛患者の神経症的傾向は、疼痛が長期におよんだために生じた心的特性を示しているものと考えられる
  • 慢性疼痛に対する心理的アプローチ
  • 急性疼痛に対する理論や治療がしゅりゅうであった1960年代に、学習理論(行動理論)を導入し、慢性の痛みの対象が、痛みのそのものでなく、「疼痛行動 pain behavior」にあるという概念を提唱したのがFordyceである
  • 慢性疼痛に対するオペラント技法
    • 疼痛行動はしばしば直接の正の強化を受けている
    • 痛みのあるものが日常生活の不快な体験を避けることができ、結果として間接的に正の強化を受ける(回避学習)
    • 疼痛行動は、よい行動が強化されないことにより生ずる
  • 具体的なオペラント技法
    • 痛みに随伴的ににせず時間に随伴的に薬剤を与える
    • 非疼痛行動に社会的強化を与え、治療にとって無益な疼痛行動を無視する(消去)
    • 歩行の増加に対して社会的強化を与える
    • 作業療法を一生懸命に行うことに対する報酬としてあらかじめ予定をたてて休息の時間を与える
      • オペラント学習とは、ある行動に引き続いて生じる結果が、その個体にとって快適なものと提示されると、その行動の強度や頻度は増加する(強化)ということである
      • 強化子(報酬)とは、ある行動にともなって提示されると、その行動の頻度を増加させるような刺激をいう
  • 行動療法的アプローチは痛みそのものを対象に治療するのではなく、痛みがあってもおかれている環境に適応し、QOLを高めることに治療目標を置く
  • バイオフィードバック法
    • 痛みを治すのは薬や注射しかないという「他者コントロール的認知」から、患者自らが痛みを軽減させうるという「自己コントロール的認知」に変化していく
    • これらの変化は、痛みに対する無力感からくる不安感を軽減し、痛みの閾値を上げると考えられる。さらに、これまで痛みに対しては薬物療法しかないという思い込み、他者コントロールに依存してきた患者が、BFを通じて自己コントロールの可能性に気づき、BF終了後も日常生活の中で、積極的に自らの健康管理に取り組むようになる動機付けにもなりうる
  • システムズアプローチ
    • システム論を用いた治療では、通常患者にもっとも影響を与える人物(主に家族)を考慮して治療対象とするため、システム論的家族療法と呼ばれることが多い
    • システム論的視点では、原因―結果という直線的な因果論的見方をしない
    • 現時点で存在しているものは、様々のシステムへの影響も含めた悪循環の連鎖であると考える
    • 現時点で患者の主訴を維持し増悪させている悪循環の連鎖を緩和させることができれば、システムが本来持つ自然回復力が働いて主訴が解決しうるのである
    • 痛みの訴えを受容することから始めるのがよい