慢性疼痛とは何か

柴田政彦 慢性疼痛とは何か 保健の科学 2018;60(11):724-727

  • IASPの痛みの定義の付随
    • 痛みはいつも主観的である。各個人は、生涯の早い時期に損傷に関連した経験を通じて、この言葉をどんなうふに使うかを学習している。侵害受容器および侵害受容経路における活動は痛みではなく、痛みはいつも心理状態を指す。と記載されている
    • 定義においては、痛みは感覚であり体験であり心理状態であるとしているが、注釈には、使い方を学ぶと行動としての側面もあることにも触れている
  • 感覚としての側面だけではなく情動としての側面や行動としての側面もあることが脳科学的に示されている
  • 慢性疼痛の診療で重要なことは、患者の訴えに真摯に向き合うことである
  • 患者は医師の診断が間違っているのではないかと感じ、効果のある治療があるのに施してもらっていないのではないかという不信感を持つ。一方、患者の痛みの訴えが続くと医師は「要求が多くて困った患者さんだ」という印象を持ってしまう。このような関係に陥ってしまう理由の一つは、患者は「医療機関は身体を治してくれるところ」と考え、医師は「医療機関は身体を治すのが使命」だという「双方の常識が一致しているから」ではないだろうか
  • この常識のもとでの診療は困難で、「慢性疼痛の原因の特定は困難であることが多く、痛みを取り除くことは難しい」「医療機関は痛みで困難な状況である患者を支えるところ」という共通認識のもとに診療を構築する必要がある
  • 慢性疼痛の診療は複雑のようだがある意味単純である。「痛みをの診るのではなく人をみる」「治療者の伝統的な使命感からの脱却」「何か約に立てることはないか?」これらの基本的なことがらを土台に、対応法の身に付けることが医療者にとって重要である

第2章 日本における慢性疼痛難治化の実態を考える ー心身医学の立場から

日本は慢性疼痛にどう挑戦していくのか

細井昌子 第2章 日本における慢性疼痛難治化の実態を考える ー心身医学の立場から

  • 九州大学心療内科を慢性疼痛で受診する症例の共通点
    • 1 父母どちらか一方あるいは療養が厳格すぎたり、過干渉であったり、全く鑑賞がなかったりして、幼少期に受けた被養育体験にまつわる苦労が多い。」また両親の不和や母と祖母の嫁姑問題により、常に母の愚痴を聞かされていた
    • 2 そのために、幼少期から家庭環境で安心感が得られない生活が持続していた
    • 3 幼少期に「子供らしい」発想で、自然な気持ちを両親に伝えることができずに、経済的・心理的な苦境を努力や忍耐の精神で乗り越えるために、過活動的に環境に適応努力を続けて、多動となっていた
    • 4 そのために、自身の感情を他者に伝えるのが極端に苦手になり、自身の感情を「飲み込む」癖がついた。それを続けているうちに、自身の気持ちを感じ取ることが困難(感情同定困難)になっている
    • 5 兄姉・弟妹といった同胞に、重症の病気や障碍があり、必然的に本人に対する注目がすくない状況にあった。十分に甘えることができずに、きょうだい葛藤を抱えて、自身は「手のかからない子」で通してきた
    • 6 両親や周囲から暴力などの危害が加えられたことがあるために、「他者評価」を常に気にしており、温和な空気が流れるように常に気を遣っている
    • 7 上記の行動を続けるうちに、自尊感情が育たず、「自分の居場所がない」「消えてしまいたい」としばしば感じている
    • 8 自身を適切に守る自己主張ができないために、理不尽な目に遭うことが多く、苦労を自分だけが背負うことで乗り越え、心身共に疲弊している
    • 9 長年の苦労が持続しそれをさらに増悪させる要因が起こったとき、あるいは困難が解消してほっとしたと思われるときより、慢性の痛みが発症・持続・悪化している
    • 10 痛みが発症後、さまざまな医療機関へ助けを求めてきたが、思ったような対応や言葉がけが得られず、自分の痛みは「わかってもらえない」と感じ、医療不信を覚えている
    • 11 これらの苦労を続けるなか、休息を適切にとる習慣がなくなり過活動となっている。強迫的な認知行動特性が身につき、交感神経緊張の状態になっている。
  • 4つの養育体験 高ケア低過干渉の望ましい型、低ケア低過干渉のネグレクト型、高ケア高過干渉の愛情束縛型、低ケア高過干渉の冷淡束縛型
  • 母親の冷淡束縛型の養育スタイルは抑うつを介して慢性疼痛の有症率の増大に影響するが、父親の冷淡束縛型の養育スタイルは抑うつ以外の要因(おそらく強迫性)も関連して、慢性疼痛の有症率を増大させていることが推測される
  • 過度の愛情によって支配する同性の親でも子の睡眠障害が悪化することになる
  • 現代の若者はSNSでの「つぶやき」は上手でも、目前の人に対して直接的に感情を伝えるソーシャルスキルが退化しがちとも言える
  • 高ケア低過干渉の望ましい養育スタイルを受けた人は、慢性疼痛症状から有意に守られているという我々の久山町疫学研究の結果と合わせて、後世の人類のために我々が重視すべきものとして、「先読みして過保護になる親の支配」ではなく、「自律性を重んじる真の愛情」の重要性を示唆していると思われる
  • 治療的な行動とみなされている運動療法を過度に行ったり、薬物を多量に摂取したり、医療機関を多数受診したりといった行動に見られる「多量を是とする」強迫性が、一見見えにくい難治性の要因でもある。無意識の不安を「数が多い」ことで安心させている実態を、患者・治療者がともに俯瞰し理解できるようになることが治療の突破口となる

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ペインクリニック診療 38のエッセンス

医学のあゆみBOOKS ペインクリニック診療 38のエッセンス

医学のあゆみBOOKS ペインクリニック診療 38のエッセンス

水野泰行 ペインクリニック+α:心理療法のエッセンス p168-172

  • ペインクリニックで治療を受けたが良くならなかったので来たという人が少なくない。そういった患者の前医への不満では、”痛みが良くならなかった”よりも”あまり話を聴いてくれなかった”のほうが圧倒的に多い
  • 話を聴き出す能力ではなくて患者が何を話したいかを察知する能力が大切
  • 患者との会話を、より意識的に方向性と目的をもって行う
  • 注目点 早口な患者が急にゆっくり喋ったり、視線が虚ろになり自分の内面に意識が向いていそうに見えたりすることろ
  • 外的な事実でなく患者自身の気持ちが語られたところで共感の言葉をかける
  • しばしば医師は医学的な正しさに拘泥して、患者のコンテキストを理解する努力を怠りがちである
  • 最初の段階では、患者が訴える痛みについて傾聴するのは重要である
  • 患者が提示しているものを利用して少しづつ変化を促すのである。イメージとしては治療者が車の助手席に座ったナビゲータで、運転手である患者に横からアドバイスをしつつ、気付かれないほどに少しだけハンドルを回し、いつの間にか違う方向に進んでいるというのが理想である
  • 注目すべきは患者の注意の対象や想起される記憶である
  • 多くの患者は悪い面に注意が向きがちであり、それが次から次へと他の悪い部分や記憶を意識に上らせ汎化してしまうために、本当はできていることに気づけない場合も多い
  • 「できない」と言われたときは、どのようにできないかを、より詳しい質問によって明らかにすべきである
  • 患者の行動を抑制する大きな要因に、痛みに関連した不安や抑うつがある
  • 不安は未来に向いた意識による危険の予測によって起こり、抑うつは過去に向いた意識による喪失感によって引き起こされるといわれている
  • 慢性疼痛の悪循環を形成する概念には破局化やキネシオフォビアといった不安や恐怖がある
  • このように思考(=実在しない危険)に囚われた状態をACTでは認知的フュージョンとよび、それによって回避行動をとることを体験の回避とよぶ
  • そして思考に飲み込まれずにそれを観察して、その考えが自分に役立たないときには自分の価値観に基づいて行動を選択するのを脱フュージョンとよぶ
  • 体験を回避している患者には、できないと思うことを実際どのくらいできないのか確かめることをお勧めする
  • マイナスを減らすのではなくプラスを積み上げるほうが、明らかに患者の気分やもモチベーションは改善するのである
  • 患者が痛みをもった状態やその辛さを受け入れて、あるがままにしておくことをアクセプタンスといい、脱フュージョンとともにACTの基本的な望ましい対応である

慢性疼痛に対する認知行動療法のエビデンスと将来の展望について

吉野敦雄、岡本泰昌、神人蘭、森麻子、山脇成人 慢性疼痛に対する認知行動療法エビデンスと将来の展望について PAIN RESEARCH 32:260-266,2017

  • 痛みに影響を及ぼす認知、行動
    • 認知 
      • 損失・無力的思考:身体的、社会能力的に大きな損傷をうけてしまったという思考 
      • 脅威的思考:危険なもので自分では対処できないという思考 
      • 破局的思考:考え得る最悪の結果が起こる可能性が高いと仮定する思考 
      • 自己・他者に対する否定的思考:損失・無力的思考との関連が強い。他者に対しても向けられる 
      • 自己効力感の低下:自主的に取り組み、それによって物事を変えることができるという思考。慢性疼痛では低下している。
    • 行動 
      • 引きこもり、活動低下:気分不良、筋肉の緊張、社会的孤立などを招く 
      • 自己主張能力の低下:自分の意思や要求を表明するための適切な自己表現の一つ 
      • その他:頻回の医療機関への受診、不必要に多い鎮痛薬・安定剤の使用など
  • 慢性疼痛では感情認識の能力低下を示す失感情症が病状の持続因子になっているという報告がみられている
  • fMRI 慢性疼痛患者においてCBT介入により眼窩前頭前皮質の活動上昇、下頭頂小葉と中心傍小葉の活動低下が認められた 
  • 眼窩前頭前皮質の活動と痛みの治療効果において負の相関がみられた治療前の後部帯状皮質の活動が痛み、不安の尺度と負の相関がみられており、慢性疼痛患者において治療前の後部帯状皮質の活動が低下しているほど、治療反応が良好であった。
  • 眼窩前頭前皮質は痛みの感覚の認知的処理において重要であり、後部帯状皮質は治療予測因子として重要な領域であることが示唆された

慢性疼痛患者の生きる意味への援助

的場康徳 慢性疼痛患者の生きる意味への援助 ペインクリニック 2018;39(5):615-622

  • 自律存在 自立と生産性に支えられて自律(自己決定)が成立する
  • 関係存在 他者を介して、他者の関係を通じて自己(アイデンティティ)が成立する
  • 時間存在 既存(過去と現状)と将来に支えられて現在(意味)が成立する
  • 人間の生の存在構造は3つの次元で成立する
  • スピリチュアルペインとは、自己の存在と意味の消失から生じる苦痛と定義される
  • 無意味、無価値というスピリチュアルペインを訴えることは、同時に本当の意味あるもの、価値のあることを探し求める「内的自己の探求と超越」も行っている。
  • 患者はこのプロセスを支えてもらうと、スピリチュアルコーピングが進み、物の見方を変える「価値観の転換」を行い、「新たな自己の存在の意味の回復」をしていく
  • この患者自らスピリチュアルペインをやわらげていく営みがスピリチュアルコーピングであり、その営みの意味をわかって援助者が支えることがスピリチュアルケアである
  • 痛みは常に意味をもっている。それゆえに、一つひとつの痛みは個人に特有のものであるといわれるように、痛みは常にその患者の体験世界で意味が構成される。
  • 痛みの訴えには3つの側面が指摘されている
    • 痛みの身体・知覚信号の側面
    • 他者に痛みをわかってもらえない、分かって欲しいという関係性の側面
    • もう意味がないという実存的な訴え(スピリチュアルペイン)
  • 反復は、患者の語りの意味がわかって相手の言葉を活かして返す技術である。それに対して語りの意味もわからず音声だけを返す技術をオウム返しであり、反復とは似ていても異なる技術である
  • スピリチュアルケアで患者が破局的思考の流れにのらないのは、苦しみを反復してもらい、自分の語りを見つめ直すプロセスが担保されることで、自己の存在と意味の回復を目指すスピリチュアルコーピングになっているからと考えられる
  • 患者は苦しみを語りっぱなしでは破局的思考や絶望に陥る恐れがある。反復されてこそスピリチュアルペインに対するセルフコーピングは箚せられる
  • 医師の共感的態度は患者の医師への信頼感を増し、患者が家族の満足度を上げることが指摘されている
  • 特の慢性疼痛の臨床においては、患者ー医師関係が重要といわれるが、その意味は、例え痛みを治療的に和らげられなくても、関係性に基づく傾聴(援助的コミュニケーション)によって、援助の余地は十分にありえることを示唆する。