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神経障害痛患者に対する27年にわたる治療方針の変化

渡邉恵介 神経障害痛患者に対する27年にわたる治療方針の変化:リハビリテーションへの動機付けが困難であった患者と新しい治療関係構築に至った治療者の気付き ペインクリニック 2015;36(10):1381-1388

  • 罹患期間が長ければ長いほど、痛み行動が習慣化して患者の置かれる環境が固定化する。このような症例では、認知の歪みに介入することは並大抵のことではない
  • 症例 スマートフォンなどの電子機器が使用できる点が他の機能障害と乖離があった
  • 当時の患者に対する印象は、「親離れできない甘えん坊」
  • 患者は高校生の時に発症した「病気との付き合い」が人生の大部分をしめており、社会的なストレスに対する対処法が病気に逃げこむことであった。痛みを訴えて医療者の関心は引くが、「治りたい」という意志は感じられなかった
  • 「作り笑い」より、焦燥や怒りであっても感情が表出される方が好ましいと考え、放置していた
  • 治療がうまくいかないことをすべて患者の責任に転嫁している私自身の態度に気づいた。この先、待っている面倒な状況から逃げ出したいのは患者でなく、私であった。この自省から、久しぶりに患者のつらい気持ちに共感を示すことができるようになり、ゆっくり話を聞く時間を設けた
  • 母親は強い共依存(家族を世話することに依存)で、家族のみならず犬の世話や伯父の介護まで引き受けており、異常なほどである
  • 入院治療の反省点は、患者と私の目的が違うことを放置したことである。患者は現状に疲れて「甘え」を求めて入院したのに、私は現状を危惧する焦りから「リハビリ頑張れ」と治療方針を押し付け、突き放した印象を患者がもってしまった
  • 私自身のエゴグラムは頑固親父タイプで「ーすべき」と説教臭くなりやすく、依存性の高い患者と距離感が近い傾向がある
  • 「楽しい雑談(現状維持)」や「リハビリの押し付け」ではなく、患者の治療意欲を刺激しながら、「見捨てられ不安」を抱えている患者の気持ちを理解し、治療者がこれからも診療を続けていく安心感を患者に見せることが必要である
  • コメント 細井昌子
  • 「楽しい雑談(現状維持)」ということばを、心理療法の目線でいうと、患者さんへのジョイニング(joining)という表現ができます。
  • 「相手と仲良くなるためには相手の価値観を大切にした方がいいのと同じくらいに、相手に何か行動してもらう時にも相手の価値観が無視できないものである」と東先生の著書にもありますが、痛みがありながらのリハビリテーションというのは、本当に患者さんの心(知・情・意)を知らいないとなかなか困難なものです。
  • このような母親の状態は、「自虐的世話役」
  • 周囲へかいがいしく世話をして自己犠牲的に振る舞いながら母親自身の存在意義を見せつけるようなところがあり、周囲の成長のための活動に興味を示さず、周囲を自分に依存させていく病理があります。母親自身が、基礎に自己否定感を覚えており、自身の存在意義を示すための行動に明け暮れている可能性があります。
  • 「親離れで来ていない、甘えん坊というのは、「両親からの本当の甘え」を得ることができずに、発達課題を抱えて幼児期に固着している状態といえるかもしれません。
  • この症例の経過を読ませていただき、神経障害痛のリハビリテーション促進に、改めてジョイニングという考え方と、動機付け面接という技法の観点が有用ではないと実感しました。