受傷機転以外にも家族の問題が影響していた慢性痛の2症例:家族葛藤

平川奈緒美 受傷機転以外にも家族の問題が影響していた慢性痛の2症例:家族葛藤に関する情報の重要性 ペインクリニック 2015;36(3):531-538

  • 労災の場合には、治療費を払う必要がなく、休職しても保障されるために、治したいという積極的な気持ちが認められず、治療に長期間を要することがある
  • 痛みに関係しているのは前医での医療行為でなく、精神面が大きく影響していることを患者本人が気づくことができた。それ以降は、注射が悪かったという言葉は聞かれなくなった。患者の立場で考えれば、それまでに夫および実家の家族に対する怒りや悲しみの混じった複雑な感情があったのが、医療行為により痛みが出現したという事象から、怒りの対象が家族でなく医療者に転換したと考えられる
  • 患者の母親にしてみれば、結婚により別居した息子が、労災事故をきっかけに同居したことで親子関係が再開され、この関係を壊したくないため、痛みが続くことが親子関係を継続させる唯一の手段と考えたのではないだろうか
  • これらの症例は、家族た離れた状況で話をすることにより、受傷機転とは異なった、もっと奥深い所にある家族の問題が痛みに大きな比重を占めていることを教えてくれた。発症機転と痛みの病態を短絡的に考えてはいけないことを学ばせてくれた貴重な症例である
  • コメント 細井昌子
  • 一見すると発症因子が主要な因子であるように見えますが、慢性化につれて難治化を促進しているのは、準備因子あるいは持続・増悪因子としての家族環境や家族性成員間の葛藤・交流不全であることを多く経験します
  • 九州大学心療内科に入院を余儀なくされる心身医学的に重症な慢性痛の症例でも悪夢に伴う夜驚は比較的頻繁に観察され、その後にトラウマの存在が情緒的な不安定さに影響を与えていることがわかることが多いようです
  • 私は患者さんに、「悪夢は無意識に抑圧されたトラウマの回復のために、自身の無意識から意識へのビデオレターみたいなもの」ですよと、説明することがあります。
  • 役所勤めに費やされていたエネルギーが余っている退職後の夫が、妻に過干渉になっている「主人在宅ストレス症候群」というプロトタイプに属する症例だと思われます。
  • 母親の本人の気持ちに注目しない(低ケア)過干渉の態度は、想定以上に慢性痛患者さんの治療予後に影響するようです
  • 母親の子離れができない苦境への介入(母親の自我の確立)を行うことが、慢性痛患者さんの変化にも有用であると感じています
  • 患者さんの心身が本当に休まる環境に持って行くためには、患者さんが自らの気持ちを感じ取る能力(感情同定のための能力)とそれを適切に主張する自己主張能力を育てていく必要があります。