痛み

鍋島茂樹 痛み 診断と治療 2017;105(6):764-769

  • プライマリケア医としては、診断や治療だけでなく、鎮痛に関しても深い知識が必要である。痛みは中枢に記憶され、固定され、慢性痛として患者を長期間苦しめることがある
  • 慢性痛に関しては、患者の精神状態や、血流障害、体の「冷え」などに注目して長期処方することが必要である
  • 筋肉を弛緩させる葛根湯や葛根加桂枝湯、芍薬甘草湯
  • 漢方が最も効果を発揮するのは、機能性ディスペプシアや過敏性腸症候群などの機能性腹痛や、ウィルス性胃腸炎、尿管結石症などである
  • 機能性ディスペプシアに対する常用薬としては、六君子湯や四逆散などの方剤が知られている
  • 尿管結石症による急性の痛みに対しては大建中湯が有効である
  • 筋骨格系の急性痛には、芍薬・麻黄・桂皮・紫胡といった生薬を含む方剤が有効である
  • 慢性化してくるとそこに附子や乾姜が加わる
  • 難治性の場合は桂枝茯苓丸や通導散といった駆お血剤を併用したり、心因的な要素が大きい場合は抑肝散や半夏厚朴湯などの気剤を併用したりすることもある
  • 急性筋筋膜性疼痛 急性期芍薬甘草湯が有効であり、NSAIDsと併用しても良い。芍薬は筋弛緩と下行性抑制系の賦活といった2つの作用があるため、筋骨格系の鎮痛の生薬といえる。ただし芍薬甘草湯を定期的長期に使用することは、甘草による偽アルドステロン症の危険を考慮し控えるべきである
  • 打撲による皮下出血や筋肉内出血をきたした場合は、治打撲一方や桂枝茯苓丸などの駆瘀血剤を短期間用いる
  • 痛みが難治性の場合は、桂枝茯苓丸、四物湯、通導散といった駆瘀血剤を併用すると、効果が上がることがある
  • あるいは、冷えが根本にある場合は真武湯や人参湯、当帰四逆加呉茱萸生姜湯を併用する
  • 担癌患者や虚弱高齢者の慢性痛の場合は、体力および免疫力の増強が大切になるため、補中益気湯十全大補湯といった補気剤をベースに投与することがある
  • 痛みは主観的な症状で、客観的に測定できるものではない。器質的異常がないからといって、目の前にいる患者に対して「痛みの原因は精神的なものでしょう」と気軽にいうことは控えるべきである
  • 痛みによる苦痛はさらに痛みを増し、反射で筋肉は硬直し、食欲が低下し、日常生活が行えなくなることすらあるからである。漢方薬は通常の西洋薬と同様に、痛みの治療を行う上で強い味方となりえる。積極的に痛み治療に取り入れるべきであろう