成功者になるか?難治性の慢性痛患者になるか?:慢性通における過剰

渡邉秀和 成功者になるか?難治性の慢性痛患者になるか?:慢性痛における過剰適応と過活動に関する考察 ペインクリニック 2014;35(1):91-97

  • パーソナリティ傷害では、痛みの訴えによって相手をコントロールしようとする傾向があるため、適度な距離を保ちながらの診療を心掛けている
  • 過剰適応と過活動の負の相乗効果は慢性痛の増悪因子になる
  • 成功者の多くが、過活動的であり、社会がそのような行動にプラス感情を抱いている為と思われる
  • 成功者の多くは過活動的かつ過剰適応的である。しかし、背景に心理社会的要因が潜んでいる場合は、ささいなきっかけでこのような行動が慢性痛に陥る危険性をはらんでいる。
  • 過活動や過剰適応はうまくいけば成功につながるが、そこで挫折すると慢性痛の悪循環に陥る可能性がある
  • コメント 細井昌子
  • 難治性慢性痛患者の2つのタイプ
    • 超過剰適応タイプ(水鳥タイプ)
      • 優雅に泳ぐ水鳥 水面より上では悠々と泳いでいますが、水面下では周囲に決して見せない相応の心遣い、体遣いをしている。水面下の水かきの速度が相当なものに達しヒートアップし、転換反応とも考えられる発作がおこった
      • 初めて本音に近い葛藤状況が素直に語られたことが、その後の良好な展開につながる。本音を語って、「優等生でなくても」周囲がその思いを受け入れてあげることができた治療者たちの受容的な態度が、心身医学的に治療として作用
    • 逆向きエスカレータ過活動タイプ
      • 大変な努力をしているのですが、逆向きのエスカレータ(逆境)に間違って乗ってしまったとき(困難な生活あるいは人間環境の家庭に生れ落ちた)のように、必死で動いていないと流されてしまい、「失敗した」と感じ、絶望感を覚える。動きを止めると後にいく感じや罪悪感を覚える所がこのタイプの特徴
      • 後ろに行かないために動いており、「決して快感や達成感を覚えていない」ことが大きな違いになっている
      • 日本社会の「努力しないといけない」「休むのは悪いことだ」といった強迫観念のようにも思える
      • 今ここにある強迫観念を形成してきたのが、過去の養育環境であることが多いようです。
  • 医療コミュニケーションの観点では、外罰的な患者さんはまず問題が先行しますが、そういった症例では傾聴する姿勢を崩さなければ比較的すぐ内面を語っていただけて、心理的な苦悩を共感しやすくなります。一方内罰的で一見適応しているような感情への気付きがない失感情的・過剰適応症例は実は最も難しいことを、治療経験が増えてるうちに実感するようになりました。
  • 成功者と同じように生きているように見えるこういった難治性慢性痛患者さんは、「何が違うのか」は、「自然な気持ちを語る日常の場が無いこと」「今ここを生きていないこと」「達成するためのプロセスが味わえないこと」が影響していると思われます。
  • 達成した瞬間にすぐに次の目標が強迫的に浮かび、「日常的に嫌悪、恨み、妬みといった否定的感情を含んだ自然な気持ちを語らない」あるいは「今ここを楽しまない」と、難治性慢性疼痛患者さんと同じトラップにはまってしまう可能性もあるわけです。