身体イメージの哲学

田中彰吾 身体イメージの哲学 Clinical Neuroscience 2011;29(8):868-871

  • 身体イメージ
    • 「自己の全身について、人が形成する心的な画像」(アメリカ心理学会)
    • 視覚情報が基本にあるといっても、鏡や写真に映った自己の身体のように、外部から見た客観性の高い情報に限定されない
    • 私たちが保持している身体イメージは、鏡や写真に映る身体とはしばしば不一致を起こしている
    • 拒食症の患者では、身体イメージと実際の身体との不一致やずれが著しく大きく異なる
  • 身体イメージの3つの側面
    • 身体知覚 body percept、身体概念 body concept、身体情緒 body affect
    • 習慣化された動作や、特別な注意を必要としない行為の遂行については、身体を対象化する明確な意識は働かず、意識の周辺で漠然と知覚されるにとどまる
    • 身体概念には、文化的、社会的な身体観も含まれる
    • 身体情緒は、自己の身体に向けられたそのひとの感情的な態度。自己の身体が自分にとってどう見えるかという身体知覚、どのような容姿を好ましいとするかという身体概念とも密接に結びついている
    • 身体醜形障害でみられる身体についての過度な不安や脅迫的行動は、単に身体イメージの障害とするのではなく、身体知覚や身体概念と複合する身体情緒の障害として理解する必要があるだろう
  • 身体図式 body schemaと身体イメージの差
    • 対象性、人称性、空間性
    • 身体イメージは、自己の身体についての知覚や情緒的態度など、自己の身体を対象とする認知があって成立する。他方、身体図式は、基本的には姿勢の維持や運動の調整において意識下で作動している主体であって、それ自体は意識の志向対象とはならない。むしろ、習慣化された行動のように、特別な注意を必要としない場面でより滑らかに機能する
    • Paillard 身体図式を身体中心の空間協調システム、身体イメージを世界中心の空間協調システムとして区別している
  • 着慣れた衣服が身体の一部となるのと同様に、身体は私にとって、生まれてこのかたもっとも着慣れた衣服である。身に染み付いた習慣がいわば第二の自然だとすれば、身体は私にとっての第一の習慣である。私は、身体になじみ、身体に住み込み、身体なしでは同じ私ではいられないほど、身体を当てにして存在している。私と身体との、そのような不即不離の関係を表現しているのが、身体イメージなのである