ペインリハビリテーション 4

ASIN:9784895903851


P327-362

第二節 脳のリハビリテーション

  • 痛みは感覚的側面、認知的側面、情動的側面の3つの視点をもつといわれているが、脳に対するリハビリテーションは、この中でも特に認知的側面、情動的側面に対するアプローチとなろう
  • 痛みに対する脳のリハビリテーションの代表的なものとしては、知覚識別課題、イメージ想起課題の効果が報告されている。これらは近くの細分化、視覚と体性感覚の統合、そしてイメージと実運動によるフィードバック情報の整合性をエクササイズするものである
  • 痛みは他者あるいは社会に向けた表現であるととらえることができる。痛みが純粋に医学的・身体的体験でなく、社会的文脈の中で体験されるものであるため、患者が表現する痛みに関連する言語を分析した介入する方法も開発されている。
  • 扁桃体の中心核と中脳水道周囲灰白質の背側部の相互結合が強化されると防御的怒りの作用を示す。この怒りは痛みに向けられたり、その身体に向けられたり、あるいは社会環境に向けられたりと、行動反応を示す。ときにその怒り行動は医療者や医療機関に向かうため、それによって医療者・施設への不信感が助長されるとともに、ドクターショッピングのきっかけになってしまう恐れが考えられる
  • こうした扁桃体の活動が繰り返されると海馬との機能的連結が強化され、不快情動体験が記憶化されてしまうと考えられている。
  • 医療側と患者側の信頼関係は、患者の情動においてこのような負が強化されると崩壊していく可能性がある。ここでの解決策として、医療側と患者側との間で報酬の予測(目標)を細かく設定し、常に目標と結果の関係が正になるように目標の水準を過大にしないように進めていく必要があろう。こうした正の報酬予測は前頭前野の働きを活性化させ、下行性疼痛抑制系を作動させることが示唆されている
  • 情動は痛みの知覚に対して変調させることが臨床上指摘されてきた。たとえば、崖から転落して数十箇所の複雑骨折をしたが、まずは身の安全を優先するために中脳水道周囲灰白質の活動を高め、痛みを近くさせないように痛みの伝達システムを構築しなおしたと考えられる事例が報告されている。
  • 痛みの知覚の変調は、注意、記憶といった脳の認知機能によっても起こる。それらの情報を統合するものも前頭前野である。前頭前野大脳辺縁系から自己の情動に関する情報、そして他の大脳皮質領域(頭頂葉、側頭葉など)から自己および外部の認知に関する情報を統合して、自己の痛みの状態を評価している。患者から発せられる痛みの状態に対する言動は、この評価を介したものであり、情動や認知の側面によって最終的に述べられる言葉に対して傾聴し、それを理解しようとする意志を表し、それに対して共同注意し、問題と捉え解決していこうとするプロセスを絶えず行いながら医療者は患者とともに生きなけらばならない。そうした態度によって痛みが軽減されることは、これまでの文章で理解されたであろう。
  • 痛みが慢性化する原因として、感覚情報間の不一致がある Fink
  • 運動の意図と気付きは、運動が実行される前に頭頂葉活動の増加の結果として現れると考察され、運動を実行しているという主観的な感覚は、運動それ自体からでは生じず、それ以前の意識的な意図と予測の結果から生成されるということが示唆された
  • 自己の身体の帰属感は視覚と体性感覚が同期することで生まれる。これに解離が生じると、自己の身体を自分のものであると認知できない無視様症候群 neglect-like syndromeが起こってしまう。頭頂葉には自己の身体図式が存在しており、こうした否認された身体現象を記憶している可能性がある。したがて、neglect-like syndromeがおこると痛みが慢性化してしまう可能性がある。