副反応と疑われた症状は何だったのか

石崎優子: 副反応と疑われた症状は何だったのか チャイルドヘルス 235(12):900-903,2022

  • 有害事象と副反応
  • 有害事象
    • ワクチン接種後に起こった好ましくない事象を有害事象と呼ぶ
    • これは接種後に起こるという時間的な関係のみで述べられ、因果関係は問いません。 例 交通事故
  • 副反応
    • ワクチンや薬物と因果関係がある、もしくは疑われるもの。
  • WHOの有害事象の分類
    • ワクチンの製品に関する副反応
    • ワクチンの品質の欠陥による副反応
    • 予防接種過誤による副反応
    • 予防接種の不安に関する副反応
    • 紛れ込み現象
      • 紛れ込みの候補の一つが、起立性不耐症の一つ、体位性頻脈症候群(postual tachycardia syndrome;POTS)
      • 日本では起立性調節障害として知られる
      • 海外ではPOTSは実に多彩な臨床症状を伴う
      • めまい、たちくらみ、動悸などの起立失調、ドライアイ/ドライマウス、吐き気、嘔吐、便秘、下痢、片頭痛などの非起立性の症状、また脳に霞がかかったような症状(brain fog)、各種の過敏性、痛み、睡眠障害などの精神神経症状、慢性疲労症候群と機能性胃腸障害
      • HPVワクチンの副反応を疑われた症状とPOTSの多彩な症状を比べると類似する点が多く見られる
      • 思春期女子に好発するという面でも紛れ込みが起こった可能性があると考えられる
      • POTSに関連するでコンディショニングという概念
      • 外傷が手術後なので長期に寝たきり状態になった跡に、身体活動の低下によって、筋力低下、骨粗鬆症、循環機能や呼吸機能などが低下することであり、循環器系デコンディショニングの代表が起立不耐症です。
      • POTSをデコンディショニングの関連も示唆されている
      • ワクチン接種後に痛み等によって身体活動が低下したことででに陥り、それが起立不耐症を悪化させるとも考えられます
  • HPVワクチン後の多彩な症状に慢性疼痛がある
    • POTSの症状としての慢性疼痛
    • 痛みで身体活動が低下して筋肉と関節の機能が低下しているときに運動すると、痛覚過敏によって痛みが更に悪化する。そして慢性的な痛みがあり、痛みが怖いために動くことを避けると、さらにでコンディショニングや過敏性を増悪させると考えられる
    • ワクチン接種後の副反応が疑われた症状が、身体活動の低下によって二次的に生じるでコンディショニングや痛覚過敏にかかわるのであれば、各種検査で炎症所見がないのにもかかわらず、種々の全身の症状が生じることも不思議ではありません。つまり副反応を疑われた症状は、HPVワクチンによる新たな症候群以外に起こり得ないのではなく、既存の概念で説明できると考えられます。

macでソフトごとに表示されるdisplayを指定したい

  • やりたいこと
  • マルチモニタ下で、macでソフトごとに表示されるdisplayを指定したい
  • 方法
  • 当該ソフトのdockを右クリック/オプション/ディスプレイ1のデスクトップまたはディスプレイ2のデスクトップを選択
  • 問題点 dockを右クリックしても、ディスプレイ1,2がでてこない
  • 解決法
  • ミッションコントロールで仮想テスクトップを一つ追加
  • その後ではdock右クリック/オプションでディスプレイが指定できるようになった
  • 参照

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ウイルス感染・ワクチン接種による免疫性神経疾患

角田郁夫: ウイルス感染・ワクチン接種による免疫性神経疾患:神経免疫学・ウイルス学の立場からHPVワクチンの推奨 思春期学 39(1):20-27,2021

  • HPVワクチン接種ではいずれの機序でも起こり得ないことを、神経免疫学・ウイルス学の専門的立ち上から解説する
  • ワクチン 大きく2つに分類
    • 生ワクチン 弱毒化したウイルスを使用
      • ウイルス特異的な液性(抗体)免疫および細胞性免疫の両者が誘導 例 麻疹、風疹、ムンプス
    • 不活化ワクチン ウイルス粒子全体を不活化した不活化ワクチンとウイルス粒子の構成成分からなる成分ワクチンがある
      • 液性免疫のみ誘導、感染性がないため安全性が高く、ワクチン接種による副反応を起こす可能性が低い 例 A型・B型肝炎狂犬病、HPV
  • 一般にワクチン接種によって誘導されうる免疫性の神経障害の機序
    • 分子相同性、バイスタンダーキリング、エピトープスプレディング
  • ウイルス感染あるいは弱毒化生ワクチン接種により多様な障害が諸臓器に起こり得るが、その障害のエフェクターとなるのはウイルスそのもの、あるいは感染に伴い誘発されて免疫反応によるものかの2つに分けられる
  • ウイルス自体による傷害は、ウイルスが向性(tropism)をもった臓器の構成細胞に感染・増殖し、肝星細胞に細胞変性効果(cytopathic effect, CPE)をもたらすことでおこるものであり、ウイルス病理(viral pathology)と呼ばれる
  • ウイルス病理の代表例は溶解感染(lytic infection)にりょう細胞死である。
  • ポリオウイルスは、中枢神経系の運動神経細胞に感染し細胞死を誘導することポリオ(灰白脳脊髄炎)の原因となっている
  • 日本では(ポリオ)生ワクチンから不活化ワクチンの接種に変更されており、不活化ワクチンの接種では、ウイルス感染・増殖が怒らないためポリオが起こらない
  • HPVは皮膚・粘膜の基底層にのみ感染するウイルスであり、CNSを含むその他の組織細胞には感染できないため、直接的な神経細胞への傷害がおきない
  • HPVワクチン接種ではL1に対する感染防御抗体だけが誘導され、ウイルスの感染・増殖は生体内のいかなる臓器でも起こらず、ウイルス病理は引き起こされない
  • ウイルス感染あるいはワクチン接種において神経系傷害をきたし得る免疫病理の機序で代表的なものは、1) 分子相同性、2)バイスタンダーキリング、3)エピトープスプレディングの3つである
  • 分子相同性は、微生物の構成分子(抗原決定基=エピトープ)と宿主細胞の構成成分が構造的に類似している際、微生物エピトープに対して誘導された抗体あるいはT細胞が、宿主の構成成分と交差反応を起こし、宿主細胞を攻撃することで組織傷害が起こる現象である
  • 代表的な臨床例としては、カンピロバクター感染後に起こるギラン・バレー症候群がある
  • これまでにHPVワクチンで誘導される唯一の抗体である抗L1蛋白抗体が、神経細胞を含むいかなる組織成分とも交差反応を示したという実験報告はない
  • バイスタンダーキリング
  • 本来、抗ウイルス免疫は感染したウイルスを排除するために、感染臓器が免疫細胞浸潤を伴う炎症反応を誘導するが、これがコントロールを失い過剰になった場合、臓器障害が生じる。本来は、抗ウイルス免疫の標的ではない傍観者(バイスタンダー)である未感染の細胞が傷害されるので、バイスタンダーキリングと故障される
  • バイスタンダーキリングなどでCNSで髄鞘成分が一次的に損傷されると、CNSの髄鞘成分が血中に流出することになる。この流出した髄鞘成分を抗原提示細胞が細くし、T細胞に抗原提示することで、髄鞘蛋白に特異的なT細胞が誘導される。この髄鞘特異的T細胞は、自己反応性細胞として働き、脱髄を誘導することが可能であり、これにより髄鞘破壊が増悪し、臨床的に病気の進行あるいは再発をきたす。この一連の経過でエピトープ(抗原が結合する部位)はウイスル抗原から髄鞘抗原へ拡散したことになり、エピトープスプレディングと呼称する。(これは理論的には起こり得る現象であるが、実際に誘導されることは稀である。)

  • CNS内に高度な炎症反応が起こらないHPVワクチン接種において、バイスタンダーキリングは起こり得ない。さらに、HPVワクチン接種では、一次的にCNSが障害される機序が働かないので、二次的にCNS傷害を増悪させる機序としてのイピトープスプレディングも起こらない
  • HANSを誘導する要因としてHPVに含まれるアジュバンドが提唱されている
  • HPVワクチンに含まれているアジュバンドはそれぞれ異なるが、A型肝炎B型肝炎Hibワクチンに含まれている
  • A型肝炎B型肝炎HibワクチンにおいれHANS類似の神経症状の報告はないゆえ、アジュバンド仮説は否定される

HPVワクチン接種後の慢性疼痛にどう対応すべきか

奥山信彦 HPVワクチン接種後の慢性疼痛にどう対応すべきか 日本医事新報 No5000 p43 2020.2.22

  • 医学的には、副反応は機能性身体症状であると説明され、接種が機能性身体症状の発生頻度を上げる有意性が疫学調査で否定され、また、ワクチンのHPV感染や前癌状態の予防効果が、海外だけでなく国内でも証明されつつある

奥山信彦 HPVワクチン接種後の慢性疼痛にどう対応すべきか(2) 日本医事新報 No5004 p62 2020.3.21

  • 同様の症例は、頻度は低いものの海外でも報告されているが、「発症時期・症状・経過に統一性がないため、単一の疾患が起きているとは考えておらず、ワクチンの安全性に懸念があるとは捉えられていない」とされている。また、昨年、世界保健機関(WHO)はワクチン後の有害事象について、ワクチンストレス関連反応(ISSR)として改めてまとめているが、その中で複合性局所性疼痛症候群、体位性頻脈症候群、慢性疲労症候群、身体症状症について、ワクチンと因果関係がない有害事象と判断している
  • すくなくとも複雑系としての脳の神経・精神システムの変容に由来するものという印象からは、原因を追求して還元論的に医療を組み立てるにはあまり適切でない疾患であり、だからこそ生物心理社会的モデルを想定して診療論からアプローチすべき疾患と思われる

奥山信彦 HPVワクチン接種後の慢性疼痛にどう対応すべきか(3) 日本医事新報 No5010 p63 2020.5.2

  • 4つの症例
  • 他の症例を含め、全体像として、身体の疼痛と運動障害を中核とした多様な症状と整理され、経過は、発症、悪化、生活傷害の残存する慢性期という3つの相が見られた

奥山信彦 HPVワクチン接種後の慢性疼痛にどう対応すべきか(4) 日本医事新報 No5015 p59 2020.6.6

  • そもそも末梢の組織傷害由来の疼痛は、脊髄視床路を経て、視床から島皮質、前帯状回前頭皮質、感覚皮質、扁桃・海馬などのpain matrixの活性化を反映するこの神経ネットワークは、刺激の弁別に情動や認知、記憶が複雑に関係していることを示しているが、慢性疼痛の多くでは、視床の活動はむしろ抑制的で、情動と認知に関わる前帯状回前頭皮質が活性化されていることがfMRIなどで証明されている。つまり幻肢痛など病理的存在そのものがない痛みでの指摘されているように、必ずしも末梢に病変が存在しなくても疼痛は出現することを意味している。そこには病理的には、神経系の変化(中枢神経系の感受性の異常亢進、シナプス・受容体の変化)が推定され、機能的には情動の関与(疼痛の不安が増幅し、不安の支持を求める情動)が反映していると考えられる

奥山信彦 HPVワクチン接種後の慢性疼痛にどう対応すべきか(5) 痛みと慢性疼痛CRPSについて 日本医事新報 No5019 p66 2020.7.4

  • 痛みとは何か、と問われたとき、我々は往々にして神経病理を基本として考える。しかし、痛みに臨床的に対応しているペインクリニックや精神科、心療内科では、器質的異常では説明できない痛みについて、人間を生物学的、心理的、社会的側面をもった複雑系として理解、対応している
  • ここで、この疾患全体をCRPSと診断できないのは、日本の判定指標が主に40代後半を平均とした女性を対象としており、思春期にもう一つのピークがあることがあまり知られていないことにもよる。「小児期CRPS」「”CRPS in children” UpToDate)は、13歳を平均とする女性に多く、契機となる外傷(ワクチンを含め)の変化が目立たず、予後が良好で、しばしば転換性障害を合併し、認知行動療法が有用であるなどの特徴があると説明されている。私は、この概念が、HPVワクチン接種後の症状をより的確に説明していると考えている

奥山信彦 HPVワクチン接種後の慢性疼痛にどう対応すべきか(6):ISSRと日本の現況 日本医事新報 No5021 p66 2020.7.18

  • 昨年、世界保健機構(WHO)は、ワクチン接種後の有害事象について、ワクチンストレス関連反応(ISSR)として、その生物心理社会モデルを提示した。そこでは、血管迷走神経反射や失神といったワクチン接種後の急性反応については、女性・思春期という生物学的リスク、そして予防接種についての知識不足と潜在的な不安という心理学的リスク、ワクチンについての社会と家族のサポートの欠如というリスクが関与していると説明。さらに接種後の、麻痺、異常運動、歩行異常、発語困難、被てんかん性痙攣などの解離性神経学的反応については、個人的な痛みに対する過敏性という生物学的リスク、不安や恐怖などの潜在的な心理学的リスク、および対応する医療者、家族、友人さらにはマスメディアの社会的リスクが関与している、と説明されている
  • これらの議論を踏まえて、HPVワクチン接種後の慢性疼痛と多彩な症状は、「ワクチン接種が契機となった可能性はあるが、因果関係は不明」とした上で、小児期のCRPSを含めた慢性疼痛や身体症状症(DSM-5)に解離症状が合併した、つまり厚労省の説明する機能性身体症状として診療が組み立てられるべきと思うが、日本では、この診療がなかなか成り立たない
  • 多くの医療機関で診療が敬遠され、訴えが受け入れられず、詐病や精神病扱いされて患者は放浪し、最終的には多くの患者さんが、免疫学的な神経疾患として治療する特定の病院へ集まっているのが現状がる。もし積極的推奨が再開され接種が広まれば、副反応の出現した患者さんが再び行き場を失って医療機関を転々とする可能性が大きいということである

奥山信彦 HPVワクチン接種後の慢性疼痛にどう対応すべきか(7):接種前のリスク対応 日本医事新報 No5024 p65 2020.8.8

  • HPVワクチンの副反応の診療には、発症・増悪の背景と考えられる生物心理社会学的リスクを軽減することと、発症した機能性身体症状そのものを治療することの2つの視点が必要である。そのため、「接種前のリスク対応」と「発症時の初期対応」、そして「治療の考え方と実際の治療」に分けて説明する。

奥山信彦 HPVワクチン接種後の慢性疼痛にどう対応すべきか(8) 日本医事新報 No5028 p65 2020.9.5

奥山信彦 HPVワクチン接種後の慢性疼痛にどう対応すべきか(9) 日本医事新報 No5033 p62 2020.10.10

奥山信彦 HPVワクチン接種後の慢性疼痛にどう対応すべきか(10)日本医事新報 No5094 p61 2020.12.11

  • 「HPVワクチン接種後の多様な症状」とは、ワクチン接種のストレスを契機として発症した身体の疼痛を主張とする機能性身体症状で、それには、1身体症状症としてのせいかと意識の変容、2身体不活動によるdeconditioning、の2つの要素があり、背景に心理社会的リスクが複雑に関係していると理解している。当時、初めての筋肉注射という不安や性教育も含む理解の困難さによる心理的リスク、家族、教育者、医療者など周囲からの支持の不確かさと、繰り返しマスメディアが報道する、疼痛、痙攣、麻痺などの画像から受ける社会的リスクが、思いの外、被接種者の状態を不安定にしたと考えている。
  • 日本の医療者も社会も、原因解決型の医療は原因が医学的に解明されなくては迷走するという悲劇を自覚しなければならない。患者に相互の信頼をもって寄り添いながら、肯定的なコミュニケーションに努め、有用性を集めて患者の苦しみを救う、という医療の原点に戻る必要があり、それには国の用意した協力医療機関の医師だけではなく、患者と接するべきすべての医療者の役割と責任が大きいということはいうまでもない。

名古屋スタディ

鈴木貞夫 「名古屋スタデイは」調査結果の解説とHPVワクチンへの疫学的評価 日本医事新報 4939:55-55 2018.12.12

  • 名古屋スタディ 2015年に全国子宮頸がんワクチン被害者連絡会愛知支部がだした要望書に名古屋市が応え、名古屋市医大医学研究科公衆衛生学分野が実施したもの
  • https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/PMC5887012
  • オッズ比が算出可能な分析疫学研究
  • 分析疫学は群間比較が根底にあるため、比較妥当性が最重要視される。
  • アウトカムは薬害で、ある程度高いオッズ比が想定され、感度の低い研究でも検出可能と考えた。
  • 対象 ヒトパピローマウイルスワクチンの無料接種が始まってからの期間に対象連例であった1994-2000年度生まれの7学年の女性、約7万人。返送約3万(回収率43.4%) 29,846人を対象
  • 同じ症状について接種、非接種の差は小さい
  • 症状の重複が増えるにつれ、むしろオッズ比は低下傾向
  • 受診のオッズ比だけが上昇したことにより、因果関係以外の関連を検出した可能性が高い。それは受診行動(ワクチン接種と症状の因果関係について心配しての受診)と時期の誤認(以前からある症状出現を接種ごと誤認した)が作用していると考えられる
  • 名古屋スタディの意義
    • 今回、接種と症状の関連について否定的な結論が得られたが、まず、過去に接種して症状がでないか不安に思っていた本人や家族に対しての安心材料になった
    • 今回の結果は、ワクチンの関与があったとして、若い女性の体調の分布に隠れてしまう程度のものであると言い換えることも可能である
  • 次に現時点までのHPVワクチンの安全性についての文献的考察を試みる。;現時点での調査研究で関連ありとされたものは、フランス医薬品・保健製品安全庁調査(ANSM)によるギラン・バレー症候群のみである
  • 以上、過去の薬害の経験、文献から考えて、HPVワクチンの接種後に現れるとされる症状が、ワクチンと因果関係を持っているという仮説は、エビデンスがほとんどなく、正統性を欠いていると考える。

鈴木貞夫 HPVワクチンと接種後症状との疫学的因果関係 名古屋スタデイの概念と解釈 外来小児科 22(1):39-44,2019

  • 疫学研究のデザイン 記述研究と分析研究
  • 事象の頻度と分布を明らかにするのが記述疫学 接種者のみを調査する接種後症状の追跡研究や、症状のあるもののみの接種歴をカルテなどで調査する症例研究は記述研究。記述研究では、群の比較や要因の分析はできないので、lこれらの追跡研究や症例研究からワクチンと症状との関連を検討することはできない
  • 影響を与える要因を明らかにするのが分析疫学
  • 名古屋スタデイは、接種・非接種、症状あり・なしをすべて調査するデザインで分析研究の分類され、群の比較や要因の分析が可能である。後ろ向きコホート
  • サリドマイドのオッズ比は360
  • オッズ比が2未満の場合は、その要因の関与は全体の半分未満で、それ以外の要因の関与のほうが大きい
  • 本研究のメインアウトカムである24症状の発症について、HPVワクチン接種が有意なリスクとなっているものはなかった
  • 病院受診のオッズ比が症状の発症のオッズ比より高く、早期症状を除外するとさらにオッズ比が上がるのは、ワクチンと症状の関連を心配して受診したことによると考えられる。;すなわち、生物学的な因果関係ではなく、受診行動による高いオッズ比と解釈される
  • 暦年が下がるとほど全体にオッズ比が高かったのは接種率との関連が疑われる。すなわち接種率が85%を超えたときの非接種者は、もともと相対的に健康状態が良くないものの割合が高かった可能性がある
  • 研究結果の意味するところ 2つ
    • 1 一定割合の人数の人が悪影響を受け、その結果として異常が増えるタイプの因果関係は否定された
    • 2 現在の子宮頚癌の頻度やワクチンの予防可能性、激烈な症状の頻度など、この研究を含めた現在までの知見を勘案すると、予防可能の子宮頚がん死亡の方が重篤な症状より頻度が高く、ベネフィットの方が大きい。


鈴木貞夫 ヒトパピローマウイスルワクチン HPVワクチンの安全性についての疫学的評価 「名古屋スタデイ」の調査結果を中心に 臨床と微生物 vol46(2):59-63,2019

  • 要旨 ヒトパピローマウイルスワクチン接種と接種後に現れる24症状との関連を検討するために、名古屋市在住の女性約7万人を対象に調査を実施した。約3万人から返答があり、ワクチン接種が症状の有無を有意に上げているものはなかった。
  • 子宮頚癌 毎年約1万人が罹患し、3000人が死亡している 
  • 20-50代の比較的若い世代で割合が高い マザーキラー
  • 一次予防 HPV感染をワクチンで予防して前がん病変を発生させないようにする
  • 二次予防 前がん病変のうちに発見して治療する(子宮頸がん検診)
  • 名古屋スタディ 同一集団内で接種群と非接種群を直接比較する分析疫学研究であり、記述疫学研究とは一線を画するものである
  • 意思決定は、リスク、ベネフィットの両面から考える必要がある。HPVワクチンは予防する疾患が感染症内で完結しておらず、社会防衛的な意味合いよりむしろ個人の意思決定が重要である。その上で子宮頚癌の頻度やワクチンの予防可能性、激烈な症状の頻度など、この研究の頻度など、この研究を含めた現在までの知見を勘案すると、ベネフィットの方が大きいと考えられる。接種率の落ちた2000年生まれ以降の女性の子宮頚癌の多発が懸念されており、問題は重大である

鈴木貞夫 再び動き出したHPVワクチンと名古屋スタデイ 現代医学 68(2):33-36,2021

  • 名古屋スタディ
  • 全国子宮頚がんワクチン被害者の会、愛知県支部と愛知県HPVワクチン副反応対策議員連絡会が、名古屋市川村たかし氏に調査の要望書を提出し、市長が実施回答した2015年1月から計画され、名古屋市立大学大学院医学研究科公衆衛生学分野に調査依頼があったのは2015年4月であった
  • 名古屋スタディが現在も唯一の自治体主導の疫学研究
  • 主解析 接種者が被接種者に比べどのくらい症状を訴える危険度が高いか(オッズ比)を症状ごとにもとめたシンプルなもの

結果として、年齢調整した全24症状のオッズ比で、有意に1を超えたものはなく、ワクチンが症状のリスクとなっているという仮説は採択されなかった

  • 厚生労働省科学研究補助金を受けた「子宮頚がんワクチンの有効性を安全性の評価に関する疫学研究(祖父江班)」の全国疫学調査が、「HPV接種歴のない者においても、HPV接種後に報告されている症状と同様の「多様な症状」を有する者が、言って割合存在した」と総括したのは、これが基本的に記述疫学だからで、注意事項にも「因果関係に言及する調査ではない」」と明確に欠いてある
  • そもそも、厚生労働省の積極的な接種勧奨差し控えの発端になったのは、接種後の症状についての個々のエピソードの集積であり、関連についての分析研究によるものではない。緊急避難としての「一時的な」接種勧奨差し控えであれば、このような措置が妥当といえても、8年間の会田に、これを裏付ける分析疫学的研究結果がでていないことから、症状との因果関係についての専門医委員会の判断は納得できるものだ

鈴木貞夫:HPVワクチンと接種後症状:名古屋スタディからの知見の中心に 臨床とウイルス 51(1):29-33

  • 因果関係は、病院論的なメカニズムが不明のものについては、人間集団でのランダム割付臨床試験(RCT)を頂点とした分析疫学研究にもとづいて判断されるものであり、計数によるものである。
  • 接種後の病態のわからない疾患や症状について、ワクチンの関与を調査するときに、患者を診察すればわかると考える人は多く、病態のメカニズムがわからないから、数を数えて因果関係を判定しているのだということが、人々の共通理解になっていない。
  • 24症状
    • 1 月経不順 2 月経量の異常 3 関節やからだが痛む 4 ひどく頭がいたい 5 身体がだるい 6 すぐ疲れる 7 集中できない 8 視野の異常 9 光をまぶしく感じる 10 急な視力低下 11 めまい 12 足が冷たい 13 不眠 14 異常に長く寝る 15 皮膚荒れ 16 過呼吸 17 物覚えの悪化 18 計算ができない 19 漢字が思い出せない 20 体が意思に反して動く 21 普通に歩けない 22 杖や車いすが必要 23 突然力がぬける 24 手や足に力が入らない
  • 祖父江班研究 厚生労働省科学研究費補助金による「子宮頚がんワクチンの有効性と安全性の評価に関する疫学研究」班

HPVワクチン接種後に報告されている症状と同様の多様な症状を有する者が一定数存在した

  • 祖父江班の研究は、スモンやサリドマイドなどの典型的な薬害では、薬剤なしに症状が起きることがほとんどなく、HPVワクチンはそれらとは異なるということを示している。なお、このプロジェクトは「記述疫学研究」であり、もともと分析を目的とっしていない。そのことは班会議報告書にも明記されており、数値同士の比較や因果推論はしてはならない
  • 副反応は、ワクチン接種の有無による比較から判断するものであり、接種者の症状という事象の記述のみから生まれることはない。
  • 名古屋スタディは、その疑問に答えるために比較を目的に行われ、その結果ワクチンのリスクは検出されなかった
  • ここでいう「ワクチンのリスク」は、ワクチンの薬理作用や生体に対する直接的な副反応にとどまらず、針刺しの痛みやワクチンの心理的影響など、すべてを含んでいる(疫学調査はその区別をしない)
  • したがって、判断としては、動画と同じような事象は、ワクチンと関係なく起きていると考えるべきだ。原因と結果の前後関係は因果関係の必要条件であるが、それだけで因果関係を判断することはできない。無過失補償というシステムはそのためにある

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HPVワクチン接種後の慢性疼痛にどう対応すべきか

  • 奥山信彦 HPVワクチン接種後の慢性疼痛にどう対応すべきか
  • 医事新報 No5000 p43 2020.2.22
    • 医学的には、副反応は機能性身体症状であると説明され、接種が機能性身体症状の発生頻度を上げる有意性が疫学調査で否定され、また、ワクチンのHPV感染や前癌状態の予防効果が、海外だけでなく国内でも証明されつつある
  • 医事新報 No5004 p62 2020.3.21
    • 同様の症例は、頻度は低いものの海外でも報告されているが、「発症時期・症状・経過に統一性がないため、単一の疾患が起きているとは考えておらず、ワクチンの安全性に懸念があるとは捉えられていない」とされている。また、昨年、世界保健機関(WHO)はワクチン後の有害事象について、ワクチンストレス関連反応(ISSR)として改めてまとめているが、その中で複合性局所性疼痛症候群、体位性頻脈症候群、慢性疲労症候群、身体症状症について、ワクチンと因果関係がない有害事象と判断している
    • すくなくとも複雑系としての脳の神経・精神システムの変容に由来するものという印象からは、原因を追求して還元論的に医療を組み立てるにはあまり適切でない疾患であり、だからこそ生物心理社会的モデルを想定して診療論からアプローチすべき疾患と思われる
  • 医事新報 No5010 p63 2020.5.2
    • 4つの症例
    • 他の症例を含め、全体像として、身体の疼痛と運動障害を中核とした多様な症状と整理され、経過は、発症、悪化、生活傷害の残存する慢性期という3つの相が見られた
  • 医事新報 No5015 p59 2020.6.6
    • そもそも末梢の組織傷害由来の疼痛は、脊髄視床路を経て、視床から島皮質、前帯状回前頭皮質、感覚皮質、扁桃・海馬などのpain matrixの活性化を反映するこの神経ネットワークは、刺激の弁別に情動や認知、記憶が複雑に関係していることを示しているが、慢性疼痛の多くでは、視床の活動はむしろ抑制的で、情動と認知に関わる前帯状回前頭皮質が活性化されていることがfMRIなどで証明されている。つまり幻肢痛など病理的存在そのものがない痛みでの指摘されているように、必ずしも末梢に病変が存在しなくても疼痛は出現することを意味している。そこには病理的には、神経系の変化(中枢神経系の感受性の異常亢進、シナプス・受容体の変化)が推定され、機能的には情動の関与(疼痛の不安が増幅し、不安の支持を求める情動)が反映していると考えられる
  • 医事新報 No5019 p66 2020.7.4
    • 痛みとは何か、と問われたとき、我々は往々にして神経病理を基本として考える。しかし、痛みに臨床的に対応しているペインクリニックや精神科、心療内科では、器質的異常では説明できない痛みについて、人間を生物学的、心理的、社会的側面をもった複雑系として理解、対応している
    • ここで、この疾患全体をCRPSと診断できないのは、日本の判定指標が主に40代後半を平均とした女性を対象としており、思春期にもう一つのピークがあることがあまり知られていないことにもよる。「小児期CRPS」「”CRPS in children” UpToDate)は、13歳を平均とする女性に多く、契機となる外傷(ワクチンを含め)の変化が目立たず、予後が良好で、しばしば転換性障害を合併し、認知行動療法が有用であるなどの特徴があると説明されている。私は、この概念が、HPVワクチン接種後の症状をより的確に説明していると考えている
  • 医事新報 No5021 p66 2020.7.18
    • 昨年、世界保健機構(WHO)は、ワクチン接種後の有害事象について、ワクチンストレス関連反応(ISSR)として、その生物心理社会モデルを提示した。そこでは、血管迷走神経反射や失神といったワクチン接種後の急性反応については、女性・思春期という生物学的リスク、そして予防接種についての知識不足と潜在的な不安という心理学的リスク、ワクチンについての社会と家族のサポートの欠如というリスクが関与していると説明。さらに接種後の、麻痺、異常運動、歩行異常、発語困難、被てんかん性痙攣などの解離性神経学的反応については、個人的な痛みに対する過敏性という生物学的リスク、不安や恐怖などの潜在的な心理学的リスク、および対応する医療者、家族、友人さらにはマスメディアの社会的リスクが関与している、と説明されている
    • これらの議論を踏まえて、HPVワクチン接種後の慢性疼痛と多彩な症状は、「ワクチン接種が契機となった可能性はあるが、因果関係は不明」とした上で、小児期のCRPSを含めた慢性疼痛や身体症状症(DSM-5)に解離症状が合併した、つまり厚労省の説明する機能性身体症状として診療が組み立てられるべきと思うが、日本では、この診療がなかなか成り立たない
    • 多くの医療機関で診療が敬遠され、訴えが受け入れられず、詐病や精神病扱いされて患者は放浪し、最終的には多くの患者さんが、免疫学的な神経疾患として治療する特定の病院へ集まっているのが現状がる。もし積極的推奨が再開され接種が広まれば、副反応の出現した患者さんが再び行き場を失って医療機関を転々とする可能性が大きいということである
  • 医事新報 No5024 p65 2020.8.8
    • HPVワクチンの副反応の診療には、発症・増悪の背景と考えられる生物心理社会学的リスクを軽減することと、発症した機能性身体症状そのものを治療することの2つの視点が必要である。そのため、「接種前のリスク対応」と「発症時の初期対応」、そして「治療の考え方と実際の治療」に分けて説明する。
  • 医事新報 No5033 p62 2020.10.10
  • 医事新報 No5094 p61 2020.12.11
    • 「HPVワクチン接種後の多様な症状」とは、ワクチン接種のストレスを契機として発症した身体の疼痛を主張とする機能性身体症状で、それには、1身体症状症としてのせいかと意識の変容、2身体不活動によるdeconditioning、の2つの要素があり、背景に心理社会的リスクが複雑に関係していると理解している。当時、初めての筋肉注射という不安や性教育も含む理解の困難さによる心理的リスク、家族、教育者、医療者など周囲からの支持の不確かさと、繰り返しマスメディアが報道する、疼痛、痙攣、麻痺などの画像から受ける社会的リスクが、思いの外、被接種者の状態を不安定にしたと考えている。
    • 日本の医療者も社会も、原因解決型の医療は原因が医学的に解明されなくては迷走するという悲劇を自覚しなければならない。患者に相互の信頼をもって寄り添いながら、肯定的なコミュニケーションに努め、有用性を集めて患者の苦しみを救う、という医療の原点に戻る必要があり、それには国の用意した協力医療機関の医師だけではなく、患者と接するべきすべての医療者の役割と責任が大きいということはいうまでもない。