痛みから捉える情動記憶の神経回路基盤

渡部文子 痛みから捉える情動記憶の神経回路基盤 生体の科学 2016;67(1):51-55

  • 情動には外界から入ってきたシグナルの”価値”に応じて、自らの行動を強力に駆動する力がある
  • ダーウィンの情動の定義 非常事態にさらされた生物が、適切に対処し、生存の可能性を増加させるためのもの
  • 情動の座である扁桃体では、様々な感覚シグナルに情動価値が付加される
  • 条件刺激(conditioned stimulus:CS 音や光、空間)と痛みなど無条件に負情動を喚起する無条件刺激(unconditioned stimulus;US)との連合学習パラダイムである恐怖条件付け
  • 扁桃体外側核(lateral nucleus of amygdala;LA) 視床や皮質を介した様々な奸悪情報の入力をうけるので、連合の責任領域として注目される
  • 恐怖記憶形成後にLAでLTP様シナプス応答亢進
  • LAにおける神経可塑性が恐怖記憶のシナプスレベルでの実体として世界中で活発に研究が進む
  • 扁桃体中心核(medial subdivision of central amygdala: CeA) 長らく恐怖記憶の想起に伴う恐怖応答のアウトプット系と捉えられていた
  • 扁桃体中心核外側部(lateral subdivision of central amygdala;CeL) 恐怖記憶の獲得に必要 (Luthi ,Anderson 2010)
  • ストレスセンターである視床室傍核(paraentricular thalamus;PVT)がこのシナプス増強の制御を介して恐怖記憶獲得を制御すること、PKCδ陽性細胞は持続性抑制性入力(トニックGABA)制御によって恐怖体験による不安の亢進に関与することなどが相次いで報告され、CeLにおける局所回路制御機構とその生理的意義の解明がシナプスレベルで飛躍的に進んでいる
  • 痛みシグナル 侵害受容器ー脊髄後角ー視床腹後外側核、体性感覚皮質ーLA,BLAを経て間接的にCeAへと入力
  • 脊髄後角浅層ー橋腕傍核ーCeA(特に外側外包部 CeC)  直接経路  高い可塑性
  • CeCは侵害受容性扁桃体とも呼ばれる
  • 人工的な恐怖記憶を作成 腕傍核からCeCへの直接経路を光遺伝子的に刺激
  • 侵害受容信号を警告信号へと”翻訳”する機能こそが、扁桃体シナプス可塑性と神経回路再編成の本態であり、その産物が”痛みの情動”であろうと想像される
  • 健康な状態では、このような経路を経て作られた不安や恐怖、不快や嫌悪などの負情動は重要な警告信号として機能する一方、過度、あるいは繰り返す恐怖体験は、PTSDやうつなどの不安障害や精神疾患、更には慢性疼痛などにもつながらり、われわれの生活の質を著しく損なうものとなる