柴田政彦 「施す医療」からの転換:私の診療に与えた慢性痛の3症例 ペインクリニック 2014;35(2):235-240

  • 精神科との合同診療で学んだこと
    • 典型的なうつ病の病態や症状
    • ペインクリニック外来で身体所見と痛みの訴えに乖離がみられる慢性痛患者の多くは、精神科的には身体表現性障害の分類に該当すること
    • ペインクリニックでの診療を求める患者での治療が困難な方は、何かしらの不満感や不信感を内在していて、精神科医もそのような患者に対応する際には厄介さを感じて気が進まないことが多いこと
    • 医療者の「治してあげよう」という純粋な姿勢は、時に患者の「治してもらおう」という依存心を強化し、不満感を減らすことができる一方で、家族や社会における本人の存在を特別なものにしてしまって、色々な意味で長期的には破綻を招く手伝いをしかねないということ
    • 痛みを主訴としない場合、同様の病態の患者さんを精神科でも数多く診る機会があるのだけれど、精神科医は、若い頃に患者に「巻き込まれる」経験をし、やがて自ら患者さんのペースに巻き込まれないような方法を学ぶものであること
  • 要するに、医療者が治せる病態はあまり多くなく、より悪い状況にしないようにすることに目標をすえるのが現実的で、訴えを受け止めた上で支持的に診療すれば、自然によい方向に進むことも少なくないということである
  • 事故や医療行為の後など、他者の落ち度に痛みの原因があると患者自身が考えている場合には、特に治療反応性が乏しい印象をもっている。
  • 慢性痛の治療の第一目標は、日常生活を安定させることであり、そのために、感情の安定、痛みの自己制御、周囲との関係を良好に保つようお手伝いすることが重要である。
  • コメント 細井昌子
  • 心理的な因子が病態の苦悩に関与していることを伝える時には、患者自身がどの程度医療者の言葉を受け入れる準備があるかを測ることだと思います
  • 対人交流について話し合うときに、患者さんにもよく伝えることですが、「正しいことを言うときは、当たりすぎて(まさしく)相手が、「痛い!」と感じて動揺することがあるので注意が必要である」ことです。あまり当たっていないことを言われるとそう気にならないものですが、指摘が鋭すぎると辛いことがあります。ペインクリニシャンが診療する際にも、心理的な介入は、時折、侵襲性が高いことがあることを理解して、治療関係作りという「心理的な麻酔」を大切にしながら、ころあいを見計らって、介入していくと心理療法という「心理的外科手術」がうまくいくのだと思います。
  • 問題の多い家族メンバーの言動に苦悩している症例の場合、自身が行ってきた様々な努力が無効であったことに疲弊しており、無力感に苛まれ、治療者に支配的な家族メンバーの言動の制御を希望される場合があります。当面は、患者さんの周囲の心理社会的環境をよく知るために、「つきあう家族介入」を行いますが、その中で、患者さんから家族に直接働きかける主体的な介入の方策を話し合うことに焦点をあてていきます。興味深いことに、以外にも、「家族が変わらない」ことを体験する中で自身の変容を受容していくほど、心身医学的な慢性痛の病態が改善することです。本人のみでなく、家族を含んだ心身医学的な病態に関しても、「施す医療から主体的なマネジメント」に舵取りすることで、難治といわれていた慢性痛が結果的に改善することがあるようです。