慢性疼痛に対する心理的アプローチと薬物療法

岩城理恵、細井昌子 慢性疼痛に対する心理的アプローチと薬物療法 医学と薬学 2015;71(9):1497-1506

  • 難治性の慢性疼痛患者の発症前後の生活環境を細やかに聴くと、仕事でも家事でも強迫的に行い過活動となっている場合が多い。その背景には、養育環境で培われた「休むな」「弱音を吐くな」など自己肯定感の低さ、コミュニケーション能力の低さが存在することが多い。
  • 慢性疼痛では、前述の痛みの恐怖回避モデルでの回避行動→「不動」となるのだが、それが「過活動のなれのはて」である観点が重要である
  • 治療者側の意識の変化も重要である。つまり、慢性疼痛でとは従来の原因→結果という因果論的モデルではなく、生物心理社会的因子が関与する円環的な病態モデルであるという前提に立つことによる難治化した症例の膠着状態から打破できることがある
  • 慢性の痛みをもつ患者の治療では治療車側の枠組みの転換が重要であり、治療目標を痛みの強さの改善ではなく、生活障害や情動障害におき、「生き生きとした生活・人生を取り戻すことにシフトすることが重要である
  • マインドフルネスとは、「今の瞬間に、価値判断をしないで、意図時に注意をむけること」であり、結果として痛みや否定的感情とも共に居ることができる(受容)ことをめざす
  • 難治化した慢性疼痛患者では、さまざまな薬物が十分すぎるほど処方されてきたにも関わらず、「全く奏効しなかった」と表現される場合がある。つまり、ドクターショッピングをしてきた患者では、プラセボ効果がないばかりか、反対であるノセボ効果が加わっている
  • 慢性疼痛は身体的な機能異常とともに人間が社会的生物であるために構造化された心理社会的障害を示唆する警告信号(social pain)が合併していることが多いことを、心身医学的治療が奏功する臨床場面を数多く経験する中で実感している。
  • つまり、痛みは人生のあらゆる未解決な問題を引き寄せている磁石のようなものであるといえるかもしれない。
  • 慢性疼痛の治療に難渋することは多いが、痛みによって投げかけられる、根源的かつ人間的な問題提起に寄り添っていけるような痛みの全人的治療が普及することが望まれる